38.先生の診察
人外魔境のソノイ村にて。
俺は育ての親であるガンコジーさんから、魔蟲族が最近うろついてる話を聞いた。
『ソノイの村から北東へ行ったところに、円卓山というわしらの狩り場がある。そこで人型の蟲が多数目撃されておる』
とのこと。
円卓山の場所はわかってるので、すぐにでも出発したかった。
だが、もう日が暮れていたので、出発は明日ということになった。
俺たちは実家に泊まることになった。
俺が使っていた部屋に、俺と妹のフェリサが泊まり、妹の部屋に先生と隊長が泊まることになった。
「悪いな、フェリサ。兄ちゃんと一緒の部屋で」
「…………」
フェリサはふるふると首を振って、きゅっと抱きついてきた。
ふんにゃりと笑ってるところから、一緒に寝るのは嫌がってない様子がうかがえる。
「けほけほっ」
「大丈夫か?」
フェリサは病にかかっている。
その治す薬は今のところ存在せず、症状を緩和させる高い薬を飲ませているところだ。
「そうだ……もしかしたら……フェリサ、ちょっとついてきてくれ」
俺は妹を連れてリフィル先生の元へ向かった。
部屋の前にて。
「先生。いますか?」
『はぁい、どうぞー♡』
妹の部屋のドアを開けると……。
「なっ!? なんですか、そのかっこう! 半裸じゃないですか!」
先生は上着とシャツをぬいで、ブラとショーツだけになっていた。
「ごめんね、暑くって♡ で、なぁに用事って?」
「その前に服! 服を着てください!」
や、やばかった……。
真っ赤なブラからは、でかすぎる乳がこぼれそうになっていた。
右胸のところにほくろがあって、エロかったな……。
い、いかん。同じ部隊の仲間を、そんな性的な眼で見ちゃいけない。
「…………」
ぎゅ~~~~~~っと、フェリサが万力のような力で、俺の手の甲をつねってきた。
「痛いって」
ぎゅ~~~~~~~~~~。
「なんだよ、何怒ってるんだよ」
「…………」
ぷいっ、とフェリサがそっぽを向く。
「あらまぁ♡ 妬いてるのねぇ♡ かーわーいーい♡」
「先生はさっさと服着てください!」
ややあって。
先生は下着の上から白衣を羽織っただけの姿で、妹を診察していた。
いや、まあ下着姿じゃないんだけど……なんか逆にエロい。
先生は診察を終えて言う。
「【イマンシ病】ね」
「イマンシ、病……」
「ええ。心臓と肺の病よ。体が徐々に弱っていって、最終的には自分では動けなくなる奇病」
「すごい……病名がわかるんですね。医者は、原因は不明だと。延命措置のために、完全回復薬をとりあえず飲んどけって」
「まあ、対症療法としては妥当ね。ただ……お金がかかるでしょ、完全回復薬は高価だし」
「はい……」
ふむ、とリフィル先生がうなずく。
「妹ちゃん……根治できるかも」
「こんち?」
「完全に快復するってこと……きゃっ!」
俺は先生の手を握って、顔を近づける。
「お願いします! 妹を助けてやってください!」
今までどんな名医に診察してもらっても、病名すらわからないでいた。
でも先生は一発で病名を言い当てた。
たしかに妹は肺を患ってるようだったし、体力が年々低下していた。きっとそのイマンシ病ってのが原因なんだ。
誰もわからなかった病名を言い当てた、名医であるリフィル先生なら、きっと妹を治してくれるはず!
「お願いします! 妹を、どうか!」
「わかった。わかったからガンマちゃん。落ち着いて」
ふと、俺は冷静になって、今どんな態勢なのかを改めて見返す。
下着+白衣の、巨乳の美人先生を、俺が押し倒してる。
「す、すみません! すぐにどきま……わわっ!」
リフィル先生が俺の腕を引っ張って、抱き寄せる。
すぐ目の前に大きな胸があった。顔に当たる柔らかな乳房は暖かくて、軟らかくて……とても甘い香りがした。
「ふふ……かわいいわガンマちゃん。ほんと【あの子】みたい……」
「あの子?」
リフィル先生が答えない。ただ、さみしそうに微笑んだままだ。
「……フェリサちゃんを治す方法は、わかってる。でも……今の私にはできないの」
「そんな……治療法わかってるのにどうして? それに……今のって……まるで昔はできたみたいに」
「そうね……昔の私なら、できたと思う。でも今は……」
先生の体が、震えてる。
きっと何かつらいことがあったのだと、目のいい俺はわかった。
それも半端ではないつらさだ。
たとえば、そう……。
「【あの子】って子が、関係あるんですね。だから、治療できなくなったと」
「……ほんと、ガンマちゃんは鋭いなぁ」
「目だけはいいんで」
よしよし、とリフィル先生が俺を抱いたまま、頭をなでる。
ほんとはこんな恥ずかしい態勢から、いち早く脱したかった。
けれど彼女は俺を抱いていると、少しずつだが緊張がほぐれているように見えた。
彼女と【あの子】とやらの間に、何があったのかわからない。
何がトラウマになっているのかも、また。
それでも……。
「嫌がらないのね」
「ええ。先生の気が少しでも安らぐなら」
「……そう。優しいのねガンマちゃん。お姉さん、惚れちゃいそうだわ」
しばらくの沈黙があった。
そして、ぽつりという。
「私……ね。弟がいたの。可愛い弟。でも……死んじゃった。私のせいで……」
「先生のせいで……? 何があったんですか?」
「……ごめんなさい。それ以上は、ちょっと」
先生もメイベル同様、悩みを抱いていたんだ。
自分の治療ができなくなるレベルの、トラウマが。
今は……話を聞いてあげることしかできない。
けれど……。そばに居てあげることはできる。
「ねえ……ガンマちゃん。たまにでいいから、お姉さんにこうして……ぎゅっとさせてくれる?」
「……はい。もちろんです」
やましい気持ちなんかではない。
仲間がつらいときは、支えてあげたい。
ちょっとの恥ずかしさなんてたいした問題じゃないのだ。
こうして俺を抱くことで、少しでも、彼女のトラウマが緩和するというのなら。
「「…………」」
「あ……」
俺とリフィル先生が抱き合う姿を、がっつりフェリサと、リヒター隊長に見られていた。
「ん? なぁに、続けてくださいどうぞぉ~」
「いやいやいや!」
俺はばっ、と先生からどく。
言及せず部屋を出て行こうとするリヒター隊長の手を取る。
「誤解です!」
「大丈夫、軍部は職場恋愛を許容してますよぉ~」
「いやだからそれが誤解なんですって!」
するとフェリサが、がしっ、と俺の腕をつかむ。
「…………」
ぎゅ~~~~~~~~~~~!
「いってええええええええええ! 折れる! フェリサ! 腕が折れちゃうぅうううううううううううううううう!」
騒がしい俺たちの様子を見て、リフィル先生は笑っていた。
さっきまでの悲しい微笑みじゃなくて、心から、楽しそうに笑っている。
俺は、そのほうが何万倍も美しいと思ったのだった。
「…………」
バキィッ……!
「折れたぁああああああああああ!」
「あらあら、大変。すぐに治療するわぁ♡ 大丈夫、骨折くらいなら秒でなおるから」
バキッ……!
「フェリサぁああああああああ! 腕ぇええええ! 治せるからって痛いんだぞぉおおおお!」
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