36.妹フェリサ
故郷へ向かう道すがら、俺の妹のフェリサと遭遇し、戦闘になった。
人外魔境の荒野にて。
魔法バイクを止め、俺たちは休憩を取っている。
レジャーシートに座っているのは、俺の妹、フェリサ。
褐色の肌に明るい髪色。
目の下に紅がぬってあり、牙のようなもように見えなくもない。
じいちゃん譲りの民族衣装を身につけている。
短パンにシャツ、その上から刺繍の入った赤い布を体に身につけている。
「おお、可愛いですねぇ~」
リヒター隊長が、フェリサをじーっと見つめる。
妹はサッ、と俺の後ろに隠れた。
「こんな小さな体の何処に、あれだけのパワーが秘められてるのか……! 興味が尽きませんねぇ!」
「……っ」
きゅーっ、と妹が俺の背中にしがみついて、体を丸めて震えている。
「すみません、妹は人見知りなんです」
「…………」じいー。
フェリサが俺を楯にしながら、リフィル先生達を見ている。
そして、俺に目線を向けてきた。多分こいつら誰といいたいのだろう。
「フェリサ。こちらリフィル先生とリヒター隊長。今の職場の先輩と上司だ」
「よろしく~♡」「よろしくですぅ」
じっ、と二人を見つめた後、また俺を見上げてくる。
おそらく、本当にといいたいのだろう。
「ほんとだよ」
「…………」
もう一度二人を見て、首をかしげる。
多分だが、二人が戦ってない姿を見て疑問に思ってるのかもしれない。
「二人は非戦闘員なんだ。でも俺のことを支えてくれる大事な仲間なんだよ」
「…………」
「確かにここじゃ、みんな戦うのが当たり前になってるけど、戦っている人を支えるって戦い方もあるんだ」
「…………」
「な、外は俺たちの知らない色々なことがあって楽しいよ」
俺とフェリサが会話してると、リヒター隊長が首をかしげていう。
「ガンマ君、君は誰と会話してるんですかぁ?」
「フェリサとですよ?」
「でも彼女、何もしゃべってないように思えるんですがぁ?」
「ああ、口下手なんですこいつ。でも、なんとなくわかるんです。目線とかで、こいつの言いたいこと」
「なるほどぉ……。君の目の良さがあれば、妹君のわずかな表情の変化から心情の変化を読み取れるんですねぇ。さすがガンマ君ですぅ」
すっ、とリフィル先生がフェリサの隣に座る。
びくぅうん! と妹が体を萎縮させていた。
一方リフィル先生はにこやかに笑って言う。
「はじめまして♡ フェリサちゃん♡ 私はリフィル。リフィル・ベタリナリよ♡ よろしくね」
「…………」
「さっきは驚かせちゃって、ごめんなさいね。お兄ちゃんが突然、知らない人を連れてきて、悪い人におどされてるんだって思っちゃったのね?」
こくん、妹がうなずいてる。
なるほど……俺たちをいきなり襲ってきたのは、そういう理由があった訳か。
初対面の人が、フェリサのことを理解できるなんて……。やはり、先生はすごい。
リフィル先生がそぉっと手を近づけてくる。
だがフェリサは逃げなかった。
「大丈夫、私たちは味方。お兄ちゃんの友達だから」
「…………」
こくん、とフェリサが頭を下げる。リフィル先生と、そしてリヒター隊長に、それぞれ。
「…………」
ばっ、と妹が懐から何かを取り出す。
「あらなぁにこれ……きゃぁあああああああああああああああああああ!」
「せ、先生どうしたんですかっ!?」
「む、虫! 虫ぃ! なぁにこれぇ!?」
フェリサが手に持っていたのは……。
「あ、なんだ【イナゴの佃煮】じゃないですか」
「い、イナゴ!? 今ガンマちゃん、イナゴっていった!? 佃煮!?」
「はい。そこら辺飛んでるイナゴを捕まえて、煮た料理です。おいしいですよ」
「無理無理無理無理! ビジュアルが無理ぃいいいいいいいいいいいい!」
いつも大人の余裕を持っている先生が、激しく動揺していた。
一方でリヒター隊長が「ほぅ……【昆虫食】ですかぁ」と物珍しそうに、フェリサが差し出したイナゴの串を見て言う。
「昆虫食ってなんですか?」
「海のない地域では、魚からタンパク質を摂取することができません。虫を食べることでそれを補うと聞いたことがありますがぁ……」
俺はフェリサからイナゴ串を受け取って、バリバリと食べる。
「ガンマちゃん! だめよ! そんなばっちいの吐き出しなさい! ぺっ、しなさいぺって!」
「いや美味いですよ。食べてみてください。フェリサのこれは、友好の証なんですよ」
んっ、とフェリサがイナゴ串を突き出してくる。
リフィル先生はドン引きしていた。そんなに虫が嫌いなのかなこの人?
「私、虫無理なの……!」
「でも魔蟲とは戦ってるじゃないですか」
「あれは! 虫って感じしないから大丈夫なの! でっかいからモンスターって感じがして……でも、この小さくてウジャウジャする感じのリアル虫は無理なの!」
うーん……違いがわからない。
嫌がるリフィル先生をよそに、リヒター隊長が妹からイナゴ串をもらって、バリバリ食べる。
「あ、なるほどぉ……意外とジューシーでおいしいですねぇ」
「ね? フェリサの作る佃煮はめっちゃ美味いんですよ」
俺と隊長でバリボリと虫を食う。
フェリサがずいずい、っとリフィル先生にイナゴ串を向けていた。
「あ、あのね……フェリサちゃん……お姉さんちょっとそれは……」
「…………」
「ああもう! そんな悲しい顔されちゃ、断れないじゃないっ!」
先生は恐る恐る串を受け取る。
ものすごく、嫌そうな顔をしながら……一口だけ食べる。
文字通り苦虫をかみしめてるような表情のまま、先生が咀嚼し、飲み込む。
「…………」
「お、おいしい……わ、よ……」
「…………」
フェリサが笑顔になる。良かった、先生は大人で。
妹はもう一本イナゴを捕りだして、ずいずいっと押しつけてくる。
「に、二本目はちょっと……」
「…………」
「ああもう! 食べるわ! 食べるからー!」
こうしてフェリサは、先生達と仲良くなったのだった。
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