35.妹との再会とバトル
俺は人外魔境に、魔蟲族の調査にやってきた。
故郷の村へ行く途中に襲撃に遭う。それは敵ではなく、俺の妹……フェリサだった。
「フェリサ! 俺だ! ガンマだ!」
俺は声を張り上げる。あいつは俺たちに向かって巨岩を投擲してきた。
つまりフェリサは、誤解してる。俺らを敵だと。誤解を解かねばと声を張ったわけだが……。
狩人の持つ【鷹の目】スキルを発動。
俺の視界に、1人の小柄な女の子が映し出される。
褐色の肌に、紫色がかった黒髪。少し寝ぼけたような表情に、じいちゃん譲りの民族衣装。
やはり俺の妹、フェリサだ。
ちんまい妹は地面に両手を突っ込む。
あいつ、やるつもりだ。くそっ。
妹と戦いたくなんてないのだが。
フェリサの目は、狩人の目だ。
獲物を狩らないととまらないだろう。仕方ない……。
「リヒター隊長、運転代わってもらえますか?」
「それはいいですけどぉ、ガンマ君は?」
「俺は妹を止めます」
サイドカーに乗ってるリヒター隊長が、こくんとうなずく。
俺は運転席から降りて、サイドカーに乗っかる。
「隊長は北に向かってまっすぐ進んでください。何があっても」
「わ、わかりましたぁ」「ガンマちゃん、頑張って」
こちらは非戦闘員が二人居る。俺には彼女たちを守る義務があるのだ。
妹に弓を向けるには抵抗はあるけど、ああなったフェリサを止めるには、打ち負かすしかない。
妹がぐわっ……! と地面につっこんだ手を、まるでちゃぶ台を返すように、勢いよく持ち上げる。
岩盤が持ち上げられ、土砂が津波のように、俺たちに向かって降り注いでくる。
フェリサとの距離が離れているにも関わらず、土砂の津波はここからでも目視できた。
「が、ガンマ君!? これ大丈夫なんですかねぇ……! 迂回した方がよくないですかぁ!?」
「大丈夫です、そのまま直進を」
「ひ、ひひ……ぼ、ボクぁ信じますよぉ……! ガンマ君の言葉をっ」
仲間からの信頼。いままでの俺にはなかったもの。
この部隊に来て、たくさんの人から俺は頼られるようになった。それに応える心地よさ、そして……うれしさを知った。
俺は仲間達を守る。
「【星の矢】!」
俺は斜め上空へ向かって、魔法矢を放つ。銀の矢は空中で分裂し、無数の流星となって地上に降り注ぐ。
広範囲に襲い来る土砂の波を、無数に分裂した魔法矢がすべて打ち抜く。
互いの攻撃はおたがい打ち消しあい、荒野に再び静寂をもたらす。
「ひっひ! これはすごい……! あんな大津波の中に含まれてる、礫岩をすべて狙撃して打ち抜くなんて!」
「こ、これで終わりかしら……」
まだだ。
狩人が、この程度の反撃で、諦めるわけがない。
チュンッ……!
ばつんっ……!
「こ、今度は何が起きてるの!?」
「向こうも狙撃してきてます」
「ガンマちゃんみたいに弓で?」
「いえ、指弾です。指で小石をはじいて飛ばしてきてます」
フェリサのやつ、大きな岩だと的になるから、速度重視で小石を飛ばしてきたな。
チュンッ……!
ばつんっ……!
「やっぱりだ……」
「が、ガンマ君? どうしたんですかぁ?」
「いや……あいつ、まだ本調子じゃない」
「「は……?」」
指弾が連続でこちらに襲いかかってくる。
俺はその動きをすべて捉えて、魔法矢で迎撃。
「フェリサちゃんって、確か病気なんでしょぉ? でもこんなに元気じゃないの。岩ぶんなげてくるし、目にも見えない早さで指弾で狙撃してくるし」
「いや、あいつが本調子なら、もっとでかい岩を、目に見えない早さでぶん投げてきます。それこそ、俺が回避できないレベルで」
「不調でこれ!? フェリサちゃんは怪物かなにかなの!?」
フェリサの指弾を狙撃しながら、俺はやはりと思い直す。
妹はまだ体調が万全ではない。なのにどうして狩りにでてるんだ?
「近づいてきましたよ! あの子がガンマ君の妹さんですねぇ!」
目をこらすと、岩山の上にフェリサの姿がぽつんと見えた。
ぐっ、と身をかがめる。
「なっ!? き、消えましたよぉ! 妹さんごと、あの岩山が!」
俺の目には見えていた。
フェリサが岩山を下って、それを持ち上げて、空高く飛んだことを。
「ん? なんですかぁ……急に真っ暗に……って、でええええええええええええええええええええええええ!?」
急速落下する、超巨大な大岩に驚く隊長。
リフィル先生は思わず顔をこわばらせ、言葉を失っている。
俺は魔法矢を構える。ギリギリと、力一杯弦を弾いて放った。
「【破邪顕正閃】!」
太陽のようにまばゆい光の矢を、俺は頭上へ向かって放つ。
すべてを消し去る破滅の魔法矢は、俺たちを押し殺そうとしていた岩山とぶつかり、相手を完全消滅させた。
ボロボロ……と俺の使った黒弓は壊れていく。
俺の膂力に耐えられなかったのだろう。やはり、この一撃を打つたびに、武器が壊れるのはなんとかしたい。
「あ、相変わらずガンマ君のその一撃は、すさまじい威力ですねぇ……」
「見て! 空から女の子が!」
フェリサがまっすぐに、地上へと落下してくる。
このままだと地面と激突してしまうだろう。
俺は新しい黒弓を取り出して、魔法矢を放つ。
「【蜘蛛の矢】」
俺の放った白い矢が、ぺたんっ、とフェリサの体にくっつく。
フェリサと俺の間に、一本の白い、蜘蛛の糸のようなものが伸びている。
「よっと」
俺は糸をぐいっとたぐり寄せる。するとゴムみたいに糸が縮み、フェリサが俺の方へとたぐり寄せられる。
俺は妹をお姫様抱っこする。
「フェリサ……おまえ」
「…………」
「まだ元気じゃないのに、無茶するなよ」
「「いやいやいやいや!」」
バイクを止めたリヒター隊長が、全力で首を振る。
「めちゃくちゃ元気でしたよぉ……!」
「あんな大きな岩がんがんなげてきたんじゃない、どこが病弱なの!?」
俺の腕の中でフェリサがうつむく。
顔色が悪い。やっぱり無理していたのか。
「いや、俺たち基準だと、今のフェリサは本調子じゃない」
「「怖いよ、人外魔境の狩猟民族!」」