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34.故郷へ



 翌日、俺は魔導バイクに乗って、西へ西へと向かった。


 サイドカーには蜜柑みかん隊の分析官、リヒター隊長が座ってる。背が高いので、手足を曲げる必要があり、窮屈そうだ。


 そして、同行者のもう一人はというと……。


「…………」

「うふふ、なぁにガンマちゃん? 緊張してるの?」


「あ、はい……まあ……」

「ふふっ、可愛い♡」


 俺の真後ろに座っているのは、俺たち胡桃くるみ隊の軍医、リフィル先生だ。


 いつものタイトスカートに開襟シャツとは打って変わって、スキニーなスラックスに長袖のシャツ。その上から旅行用の外套マントを羽織っていた。


 今回の旅にだれが随伴するかで、メイベル達はじゃんけんをした。


 その結果、先生がついてくることになったのである。


 明るい髪色。薄くひかれた口紅と、その大きすぎる胸に、むせかえるような甘い匂い。


 大人のお姉さんって感じの彼女が、すぐ後ろにいる。しかも、ぎゅーっと抱きついてくるのだ。


「あ、そ、その……もう少し離れてもらえると……」


「あらあら、そんなことしたらお姉さん、落ちちゃうわよ。えいっ♡」


 さっきよりも強い力で、リフィル先生が俺をハグしてくる。


 今日は普段より厚着しているのに、伝わっているリアルな胸の弾力。お、落ち着け……落ち着け。


 今はバイクを運転中だ。ここで横転事故なんて起こしたらしゃれにならん。


 二人も未来有望な人材を乗っけてるんだから。


「うふっ♡ 動揺しちゃってかわいい♡」


「からかわないでくださいよ……」


「からかってないわ。ただ、ガンマちゃんと仲良くなりたいだけよ」


 仲良く……か。そういえばリフィル先生とは、一度買い物しにいった以外、あまり絡んだことないな。


 仕事面ではいろいろとサポートしてもらってるけど。


 プライベートなことは、何も知らない。向こうも俺と同じなのだろう。


 仲良くなりたいというのは、この任務を通じて、おたがいのプライベートなことを知り、よりスムーズな連携がとれるようになれたらいいね。


 そういう意味に違いない。


「俺も先生のこと、よく知りたいです」

「まあまあ♡ じゃあたっぷり教えてあげるわ♡ たぁっぷり……ね♡」


「はい! よろしくお願いします!」


 隣でリヒター隊長が「ガンマ君多分意味わかってないのでは……」とつぶやいていた。


 意味わかってない?


「ところでガンマちゃんの故郷の村って、後どれくらいかかるのかしら?」


「バイクならもうあと数時間もあれば到着しますよ」


 俺たちは今回、人外魔境スタンピードに魔蟲出現の噂を聞きつけ、調査にやってきた。


 人外魔境スタンピードの土地は広大であるため、俺の村を拠点として、周囲の探索をすることにしたのである。


 実家には、今日帰ることを手紙で伝えてある。


 だから近くに行けば、出迎えてくれるはずだ。


 バイクを走らせること1時間。


 俺たちは荒野へとたどり着いていた。


 いったん止まって、水分と栄養補給をしている。


「しかし暑いわねぇ。ここ」


 外套を脱いだ先生が、シャツの胸元をぱたぱたさせながら言う。


 シャツから完全に乳がこぼれ落ちそうで、何度も目がそちらにいってしまう……。


 い、いかん……。なぜだかメイベルに申し訳ない気持ちになった。


「ま、周りに太陽光を遮るものが何もありませんからね……」


「こんなとこにいたら日焼けしちゃいそうだわ。しっかりボディケアしないとね♡」


 リフィル先生が胸の谷間から、ポーション瓶を取り出す。


 す、すごいこれ……どうなってるんだ?


「じゃーん♡ お姉さん特製の【日焼け止め】でーす♡ ガンマちゃん、ほら塗ってあげるから、シャツ脱いで♡」


「あ、いや! いいですって!」


「遠慮しないの♡ ほらほら、男の子でしょう? 女の子の前で脱ぐのためらってたら、本番の時に幻滅されちゃうわよ~♡」


「なんの話してるんですかなんの!?」


 ぎゃあぎゃあと騒いでる一方で、双眼鏡を覗くリヒター隊長が首をかしげる。


「おかしいですねぇ」

「な、なにが……ですか?」


 先生にシャツを無理矢理とられて、肌にぬるぬるとした液体を塗りたくられた……。


 そんな俺をよそに、隊長が真面目な顔で言う。


人外魔境スタンピードは魔物の巣窟と聞き及んでますがぁ、周囲にはその姿が見当たりませんねぇ」


「あらそうなの?」


「ええぇ。Sランクの凶暴な、しかも群体を作るようなモンスターがこの土地ではうじゃうじゃいるはずなのですがねぇ」


 リフィル先生とリヒター隊長が、はてと首をかしげる。


「あ、それ倒しておきましたよ」


「「は……?」」


 目を丸くする二人とも。


 俺はシャツを着て、バイクにまたがる。

「さ、行きましょうか」

「「いやいやいや」」


 がしっ、と二人が俺の肩をつかむ。


「ガンマちゃん、説明して♡」

「説明も何も……だから、俺が狙撃して周りの【雑魚】は駆除しておいただけですが」


「あらまぁ、いつの間に?」

「え、バイクを止めて、休憩を取ることになったときですが」


「あらぁ……狙撃なんてしてたのねぇ。早すぎて目で追えなかったわ。すごいわ♡」


 改めて、俺は先生を見やる。

 

「どうしたの? ガンマちゃん」

「いや……今更ですけど、俺の言葉信じてくれるんですか? 前のパーティでは、何もしてないって追放されたんで……」


 周囲数十キロの範囲にいる魔物を、一瞬で狙撃して倒して見せた。


 そう言っても、前いた冒険者パーティ【黄昏の竜】のメンツは、俺の言葉を全く信じてくれなかったのだ。



「信じるわよ♡ ガンマちゃんが嘘つくような子じゃないって、お姉さん知ってるし」


「先生……」


 ああ、あらためて、俺を正しく認めてくれる、メンバーの居るこの隊に来て良かったなぁって思った。


「さ、いきましょうか」


 俺たちはバイクに乗って再び走り出す。

 リヒター隊長は双眼鏡を片手に、またもう片方の手には板状の魔道具を手にしながら、周囲を見ている。


「それなんですか?」

「【タブレット】っていう、ボクが開発した魔道具ですよぉ。【魔導ドローン】の映像を映し出すよう設定されてます」


「タブレット……。魔導ドローンってなんですか?」

「ガンマ君が見せてくれた、【蜻蛉の矢(ドローン・ショット)】あるじゃないですか。あれを参考に、偵察用の魔道具を、マリク隊長と一緒に作ったんですよぉ」


 俺たちの部隊の隊長は、天才魔道具師だ。

 

 依頼すれば大抵のものは作ってくれる。

 魔導ドローンとやらの映像を見ながら、リヒター隊長が感心してる。


「なるほどぉ……ガンマ君、【鳳の矢フェニックス・ショット】を展開してたんですねぇ」


 鳳の矢フェニックス・ショットとは、敵を見つけ次第、迎撃する魔法矢のこと。


 俺は出発する際にこの魔法矢を放っておいたのだ。


 ドローンの映像からそれがわかったのだろう。


「ボクらがここまで安全にこれたのは、ガンマ君の矢が自動で敵を倒してくれてたおかげだったんですねぇ」


「ああ、はい。まあ強めのやつは直接やらないとだめですけど、雑魚くらいならオートでいけます」


「ここの凶暴な魔物を、雑魚ですかぁ。やはりあなたは頼りになりますねぇ」


 リフィル先生同様、リヒター隊長も俺を認めてくれる。


 ほんといいとこに入ったなぁ……。


 と、思っていたそのときだ。


「! ガンマ君!」


「わかってます。大丈夫です」


 俺はハンドルから手を離し、弓矢を展開。


 魔道具師マリク隊長が作ってくれた、変形する弓を構えて打つ。


「【竜の矢(レーザー・ショット)】!」


 斜め前方に向けて、熱を帯びた魔法矢を打ち込む。


 それは大気を引き裂きながら一直線に、極太の熱線を発生させる。


「きゃっ! な、何が起きたの……?」


「前から巨大な岩が、いくつも投げ飛ばされてきたんですよぉ。ガンマ君の竜の矢のおかげで、全部消し飛びましたがぁ……あれは、異常な速さでしたぁ」


「どういうことかしら?」

「ものすごいでっかい岩が、あり得ない早さでとんできてたんですよぉ。あれが落ちたらひとたまりもありませんでしたねぇ……ガンマ君?」


 俺はバイクを止めて、【鷹の目】スキルで、この岩を投げたやつを目視する。


「フェリサ……!」

「フェリサ……? お知り合いですかぁ?」


 知り合いだって?

 よく知ってるに、決まってる。


「はい。俺の……妹です」

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― 新着の感想 ―
何もしてないから追放って… 狙撃したら死体が残るのに何もしてないとは? 消えるのだとしたら魔物を毒抜きして食べるっていう下りはおかしいし。 少し矛盾している気がするな。
[良い点] フェリOサ強そうです!
[良い点] リフィルさんやばすぎ!
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