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3.皇女からのスカウト

 パーティを追われ、途方に暮れていた俺は、偶然皇女アルテミスの乗っている馬車を助けた。


 俺はアルテミスたちの乗っていた馬車に相乗りさせてもらっている。


「あの、すみませんでした、皇女殿下にたいして、無礼な口をきいてしまって……」


 馬車の中には俺とアルテミス、そして旧友の少女メイベルが乗っている。


 俺の真横にはメイベルが座っていて、正面にアルテミス様って感じだ。


「あたしからも、すみません! こいつちょー田舎もんなので! 許してやってください!」


「いや田舎者って……」


「そーでしょ? 違う?」


「違わないです……」


 アルテミス様は気にした様子もなく、くすくすと笑っている。


「気にしないでください。あなたは命の恩人ですから」


「は、はあ……で、でもなんで俺が助けたって知ってるんです?」


「メイベルから聞きました。あれは、あなたの射った魔法矢だと」


 そういやメイベルも俺が魔法矢を習得していることは、知っている。


星の矢(アサルト・ショット)】だとメイベルが見抜いていた訳か。


「素晴らしい射撃の腕前でした。噂通りです」


「は、はあ……」


「ちなみにどれくらい離れた場所から射ったのです?」


「まあ、10キロくらいですかね」


「まあ! 10キロ! すごいです!」


 ……いやにあっさりと信じるな、この人。


 あいつらは、信じてくれなかったのに……。


「私、嘘が見抜けるんです」

「え? そ、そういうスキルか何かおもちで?」


「いいえ。私、人を見る目は誰よりも長けていると自負しております。その人が嘘をついてるかどうか、そして、その人が大成するかどうか。そういう目が」


 アルテミス様は微笑んで、俺の手を取って言う。


「ガンマ様。どうか、わが軍へ入ってはもらえないでしょうか?」


「は……? ぐ、軍に!? マデューカス帝国の!?」


 お、おいおい……大帝国の軍部に入れるだって!?


 ものすごい出世じゃないか! あそこって実力主義国で、その軍部っていや、末端の兵士だって相当な金がもらえるって話だぞ!


 いや、待て。そんなおいしい話が、どうして俺なんかに来るんだ……?


 するとメイベルがふぅ、と息をつく。


「あたしが推薦したんだ。ガンマを」


「おまえが? どうして?」


「あたしはマデューカス帝国に仕える家の一つで、将来は軍部に入ることが決まってんだ。んで、あんたを片腕としてスカウト……しようって思ってたんだよ、卒業のときにね」


「そ、そうだったのか……それがなんで今?」


「あんた、クビになったんでしょ、Sランク冒険者パーティ。だから来た、あんたを誘いに!」


 メイベルのやつ……まじでいいとこの出身だったのか。貴族特有の、鼻につく態度もなかったから、てっきり平民かと思っていたんだが……。


 でも皇女と一緒にいるし、本人も軍部に所属してるっていうのだから、マジでいいとこの令嬢だったんだろう。


 そうか……俺を誘ってくれるはずだったのか。


「ごめんな、誘いに気づかずに」

「いいって。あの学園長が作ったパーティだもん。あんた、あの人に恩を感じてたし、無理に引き抜くのはできないってばさ」


「悪い……」

「いいって。で? どうなの? うちの軍部に入らない? あんたみたいな、すごい後衛が、是非ほしいの!」


 すごい後衛……か。

 そう言ってくれるのはメイベルくらいだ。


 パーティメンバーたちは俺をほめてくれないどころか、価値なしの役立たずとさげすんでいた。


 でも……メイベルは違う。俺を理解してくれている。


「ガンマ様。どうか、我が帝国に入って、力を貸してくださりませんか? あなたのその、素晴らしい射撃の技術があれば、きっと多くの帝国民たちを救ってくださるでしょう。私には見えるんです。あなたの射った矢が、やがて未来を切り開くと」


 ……二人から、俺を必要とされている。ここまで必要とされたことがあったろうか。

 

 ……俺は、どうするべきか。必要としてくれるこの人に、ついていきたくなる。だが、待て。


 俺に最も必要なのは、金だ。妹の薬代を稼ぐ必要がある。


 でも、Sランク冒険者時代と比べ、軍部がいかにエリート集団だとしても、給料は下がってしまうだろう。


「ちなみにお給料はこんな感じ」


 ぼしょぼしょ、とメイベルが俺に耳打ちを「乗った!!!!!」


 Sランク時代の倍!


 断る理由なんて、ないに決まってら!


「お、おう……乗り気じゃん?」

「当たり前だろ! 二倍だぜ二倍! やるに決まってるだろ!」


 これで腹は決まった。俺は帝国の軍部に所属する。


 妹の薬代を稼ぐために、新しい職場で、頑張る……!


「ありがとう、ガンマ様」

「いや、あの、様はやめてくださいよ、アルテミス様……」


「わかりました。では、私のこともどうか、アルテミスとお呼びください」


「え、ええー……皇女様を呼び捨ては、ちょっと……」


 すると少しむくれた表情で、ぷいっとアルテミス様が横を向く。


 メイベルが苦笑しながら言う。


「ほらほら、殿下のごめーれーに背いちゃだめでしょー」


「え、これ命令だったの……?」


「そうだよガンマ! ほらクビになっちまうぜ? ほらほら呼び捨てよーびすてー!」


 ……首になるのは御免被るので、俺は、言う。


「ええ、っと……よろしく、アルテミス」


「はい、よろしく、ガンマ・スナイプ。ようこそ、我が帝国へ」


 笑顔でそう言われちゃ、様をつけて呼ぶわけにはいかないなぁ……。


 かくして、Sランク冒険者パーティを追放された弓使いの俺は、旧友の誘いで、帝国に拾われることになったのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「そうだよガンマ! ほらクビになっちまうぜ? ほらほら呼び捨てよーびすてー!」 貴族の娘がほらクビになっちまうぜ?なんて盗賊みたいな口調なのはちょっと…
[気になる点] 皇女さまなら護衛いっぱいなはず・・・
[気になる点] 「あんた、クビになったんでしょ、Sランク冒険者パーティ。だから来た、あんたを誘いに!」 なんで知ってんの? 流石に情報得る時間無いでしょ、主人公がクビ宣告から助けるまでに時間が有る様…
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