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28.破邪顕正の一撃



 俺、ガンマは連れ去られたメイベルの救出に、合宿所から離れた洞窟へとやってきた。


「メイベル……!」


 アイリス隊長は妹に駆け寄って、ぎゅーっと力強く抱きしめる。


「お姉ちゃん……」

「けがはないか!? ひどいことされてないか!?」


 本気で心配するアイリス隊長からは、確かに、家族の愛情を感じさせられた。


 やっぱりこの人は、妹のことを大事に思ってたんだ。


「うん……大丈夫、大丈夫だから……」

「そうか……よかった……よかったよぉ……」


 メイベルは驚いたものの、姉が心配してくれたことがうれしかったのか、目に涙をためてぎゅっと抱きしめた。


「ありがとう……お姉ちゃん。それに、ガンマも」


「どういたしましてだ」


 アイリス隊長が妹の抱擁をとく。


「何があったの、今まで?」


 メイベルに、ここに至るまでの経緯を、マリク隊長から聞いた話も含めて説明する。


 あの夜、イジワルーが急に訪ねてきた。


 様子がおかしいと思っていると、急に暴走。建物を破壊したあと、メイベルを連れて行った、とのこと。


 胡桃くるみ隊全員で救出に向かおうとしたが、そこへトンボ型の魔蟲族【ドラフライ】がやってきた。


 ドラフライは魔蟲の援軍を率いていた。


 マリク隊長たちは俺とアイリス隊長にメイベル救援を任せ……。


 今、俺はここにいるってわけだ。


「あっちは、大丈夫なの?」

「問題ない。隊のみんながいるしな。だから……あとはここをぶっ潰せば終わりって訳だ」


 俺たちの周りには、奇妙な化け物たちがいる。


 そいつらは人間……ではない。

 体の一部や、頭が、魔蟲になっている化け物だ。


「ガンマ、あれは改造人間だって。魔蟲の組織を強制的に埋め込んで作られたって……」


「その通り。初めましてガンマ・スナイプ君。私の名前はジョージ・ジョカリ。蟲師むししをしている」

 

 ジョカリ……。

 リヒター隊長と同じ名字だ。


「私は魔蟲族側に与し、生物の進化の研究をしている。特にガンマ君……君には非常に興味がある。どうだろうか、私のもとに……」


 バシュッ……!


 俺はジョージの体を魔法矢で射貫いた。

 頭部だけになったジョージが、どさっと地面に落ちる。


「死んだの……?」

「いや、手応えがなさすぎる。たぶん、ダミーだろう」


『正解さ』


 どこからか、ジョージの声が響いてくる。


『まさか敵の幹部が、おめおめと現場に出てくるわけないだろう? そこで死んでるのは私の作った自動人形オートマタさ』


 生物の気配を感じさせないと思ったが、どうやら本体じゃなかったらしい。


『さてどうするガンマ君。そこは敵地のど真ん中だ。周りには改造人間たち。さらにここは魔蟲の巣の一つだ。今まさに穴から出てきた魔蟲たちが、君たちを捕食しようと大群で襲いかかってくる』


 なるほど、改造人間以外の敵の気配は、そういうことだったのか。


『そこのか弱いお嬢さん二人を守りながら、改造人間と魔蟲の波状攻撃に、果たして君は耐えられるかな?』


「何も、問題ない」


 俺の手には、黒い弓。

 魔蟲の素材で作られた、新しい武器が握られている。


 今までの俺は、体に合っていない弓を使っていた。


 だから、俺は全力を出せずにいた。でも……今の俺は違う。


「アイリス隊長、メイベルと一緒に俺の影に潜っててください」


「……貴様はどうする?」


「ちょっと、荒っぽいことします」


 俺一人で戦うという宣言に、アイリス隊長は戸惑う。


 この大軍勢を前に一人で挑むなど、本当は無謀なことだろう。


 だが……彼女は俺の目を見て、信じてくれた。俺の力を。


「……わかった。頼むぞ」

「ガンマ……!」


 姉に抱きしめられ、影の中に沈みながら、彼女が俺に言う。


「大丈夫、だよね!」

「ああ。問題ない」


 俺が笑いかけると、彼女もまた少しだけ、笑ってくれた。


 アイリス隊長は影の魔法を発動させ、俺の影の中に消える。


 残されたのは俺一人。周りには大量の改造人間。そして、数え切れないほどの魔蟲の群れ。


「ふぅ……よし」


 俺は、頭の中を切り替える。


「じいちゃん……あの力、使うよ」


 俺は黒弓を手に、思い切り弦を弾く。

 

 今までは、出せなかった全力。


 右手に魔力を全集中させる。


 ごぉおお……! と激しい銀色の光があたりを照らす。


『なっ、なんだこれは!? この魔力量は!?』


『すごい……これが……ガンマの魔力量……こんな、膨大な魔力を体に秘めてたなんて……』


 俺の右手に魔力が集中していく。


 それは1本の魔法矢へと変わった。


 太陽のような、激しい光を放つ魔法矢。

 それは今まで放つことのできなかった、俺の全力全開の一撃(マックス・ショット)


 魔蟲、改造人間たちが襲ってくるなかで……俺は、放つ。


 すべてを浄化する、破滅の矢を。


「【破邪顕正閃はじゃけんしょうせん】」


 放たれた矢は光となって、周囲に広がっていく。


 聖なる光は俺の周囲にいる邪悪なるものを、すべて消し飛ばしていく。


 すさまじい光だ。


 敵の体が触れた瞬間消し炭になる。


 光を遮ることはできない。

 俺たちの立っている地面さえも、この破滅の光は削り取っていく。


 洞窟は内側から、強いエネルギーの奔流によって崩壊していく。


 中にいた改造人間、魔蟲、そのすべてを無に帰していく。


 遠くでこの光景を見ているやつらからすれば、天を衝く、巨大な光の柱に見えるだろう。


 とすれば、天を貫く巨大な光の矢に見えたかもしれない。


 破邪顕正閃。


 俺を中心として、周囲にあったすべてを消し飛ばす、破滅の光を魔法矢にして飛ばす、俺の使える最強の奥義。


 この光が収まった後……。


 洞窟は、消えていた。


 森の中にあった洞窟だったけど、森の木々もすべて消え去っている。


 空を覆っていた雲も、光を受けた部分だけは無くなり……。


 さらに、月の一部が欠けていた。


 どうやら運悪く、破滅の光を浴びてしまったらしい。


 荒野に一人立つ俺の影から、メイベルとアイリスが出てくる。


 二人は抱きしめ合って、この光景を見ていた。


「今のが……貴様の、本気か?」


「ん。いや……」


 ぴしっ、ぴきぴき……ぱきぃいんん! と。


 リヒターさんからもらった黒弓が、粉々に砕け散ってしまった。


「この弓でも、俺の全力には耐えられなかったよ」


「すごい……こんな、周りほぼ荒野にしちゃうくらいの一撃で……まだ、全力じゃないなんて……」


 呆然とするメイベルたち。

 そこへ……。


「おーい! ガンマ! メイベルぅうう!」


 魔導バイクにまたがった、マリク隊長とオスカーがこちらに駆け寄ってくる。


 どうやら向こうの戦闘も無事終わったようだ。


 バイクが俺たちのもとへ止まると、マリク隊長たちが慌ててかけよってきた。


「おいなんだよ、あの天を衝くような光の柱は!」


「ここら一帯が吹き飛ばされてたよ! 敵の攻撃かい!? 無事かい!?」


 どうやら二人は、敵がやったものだと勘違いしてるようだ。


 俺はふるふると首を振って答える。


「大丈夫です。敵は俺が消しました」


「「…………」」


 ふたりが周囲を見て、そして俺を見る。

 何度も見返して、そして……言う。


「「おまえ、やばすぎだろ……!」」


 まあ何はともあれ、敵の脅威を払うことに成功したのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] やば。世界を破滅させそうな、まるで魔王様^^ [気になる点] 全力って、どうすれば出せるのか? [一言] 更新、お疲れ様です。
[気になる点] 素材持って帰れなかったら、リヒター隊長が泣いちゃうかも。
[良い点] 主人公が強くてかっこいいです。
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