エピローグ
魔蟲王事件から、3年が経過した。
ある日の朝。
俺は帝都をかこう外壁の上に立っている。
「ふぅ……」
早朝の、この空気が、静寂が好きだ。
「さて……」
俺は背負っていた弓を構える。
空に向かって、矢を放つ。
それは無数に分裂し、地上へ静かに降り注ぐ。
多分誰もがただの流星だと思うだろう。
それでいい、狩人とは、賞賛のために動かず、森羅万象の一つとなり、黙して機を待つ……。
ガンコジーさんが教えてくれた、狩人の極意だ。
俺の活躍は誰にも評価されなくて良い……。
朝の仕事を終えて、俺は外壁から飛び降りる。
「や、ガンマ~! おはよー!」
「メイベル」
俺の恋人、メイベルが、旅装すがたで立っていた。
手にはバスケットが握られている。
「今日も朝からお勤めごくろうさまです、救世の弓聖さん」
「やめてくれそのあだ名……恥ずかしいから……」
メイベルから差し出されたバスケットをあける。
中にはサンドイッチが入っていた。
「しかし君も勤勉ですなぁ」
「まったくだぜ」
胡桃隊の皆がぞろぞろと集まってきた。
「隊長」
「おいおい、元隊長だろう? おまえは今や、近衛兵隊長なんだから」
魔蟲王事件から3年が経過し、俺は皇帝陛下から、近衛兵たちをまとめる、隊長となった。
「俺の中では、今でも俺は、胡桃隊の一員ですから」
「うれしいこと言ってくれるじゃあねえか。なあ、みんな」
オスカー達、元・胡桃隊のメンバー達もいる。
彼らも今は独立して、それぞれの道を歩んでいる。
オスカーはリヒター隊長のもとで片腕として。
シャーロット副隊長は現・胡桃隊の隊長。
マリク隊長、リフィル先生はそれぞれ開発室長と衛生兵長。
フェリサとリコリスはシャーロット副隊長の下で働いてる。
そして……メイベルは今、育休をとっているのだ。
皆今は、新しい場所で、新しいことをしてる。
……だというのに、だ。
「今日は実家に帰るんだろう?」
「はい。ガンコジーさんに、出産報告をと思って」
俺とメイベルは結婚し、つい先日子どもができた。
実家に帰って、じーさんに子どもの顔を見せに行くのだ。
「人外魔境を二人旅か。昔は、無理だったろうなぁ」
人外魔境は魔物うろつく危ない場所。
しかし、今朝その全ての敵を、矢で葬り去った後だ。
「ガンマがいるから問題ないよ!」
「そうだな。ガンマがいるおかげで、おれたちや、その周りの連中も、平和に暮らせてる」
毎朝魔物を狩るのが、日課になっているのだ。
俺が兵士達の仕事を奪っているというのに……。
「弓聖さまぁ~!」
朝、皆が目を覚まし、外に出る。
彼らは俺に手を振っている。
「今朝もありがとうございます!」「今日も穏やかに過ごせそうです!」
……別に今も、人から賞賛されるために、狩りをしてるのではない。
ただ、今は。
人々の笑顔を守るために、狩りをしてる。
俺はこれまでも、これからも。
狩人として……生きていく。
「んじゃ、ガンマ。いってこい」
マリク隊長達が笑顔で言う。
俺はメイベルたちを連れて、出発する。
「「いってきます!」」
《おわり》
これにて完結です!
読了ありがとうございました!