238.成就
《オスカーSide》
ガンマが皇帝陛下に謁見してる一方、オスカーはリヒター隊長の元を訪れていた。
「やぁ隊長!」
「…………」
「隊長?」
リヒターは椅子に座り、ぼうっとしていた。
物で溢れかえっていたはずのラボは、今はがらんとしてる。
「隊長、どうしたのだね? 荷物がないじゃあないか。まるで、引っ越しするみたいじゃあないか?」
「ああ……」
リヒターはうなずいて言う。
「軍を辞めようと思ってるんだ」
「!? どうしてだね……?」
「なんでだろうね、もう……頑張る理由もなくなったから、かな」
リヒターには天才である兄を越えたい、という思いが胸にあったそうだ。
兄を倒し、凌駕することができた。
……そして動機と目標をいっぺんに失ってしまったという。
「……やめてどうするんだい?」
彼女の意志を尊重したいという気もちはある。
「さぁ……わからない。何も決めてない」
「そうか……」
でも。
オスカーはリヒターの前まできて、頭を下げ、手を差し出す。
「じゃあ、僕と付き合ってください!」
「……………………は、はぁ!?」
リヒターは目をむく。
「な、何を馬鹿な……」
「僕は貴女を尊敬してる。あなたのことがすきなのだよっ!」
「ちょ……ほ、本気?」
「本気さ! お願いだ、隊長……ボクを君の、生きる理由にしてくれたまえ!」
「…………」
オスカーは真剣な表情でそういう。
他のどの女性でもなく、目の前にいるこの人のことが好きだ。
この人のために生きたい、この人のさみしさを埋めてあげたい。
今はそう思っている。
「……オスカーくん」
リヒターは照れながら、その手を握る。
「ありがとう。君にそう言ってもらえてうれしいよ。……うん、そうだね。もう少し、ここにいようかな」
「ほ、ほんとかい!? そ、それってつまり……」
リヒターはうなずいて言う。
「うん。君の、カノジョにしてください」
「た、隊長ぉ~!」
がばっ、とオスカーがリヒターに抱きつく。
「わはっはあ! ついにカノジョができたよぉ! 兄弟ぃいいい!」
「ちょ、だから声がでかいっ!」
「隊長! 一生幸せにしてみせるからねえ!」
リヒターは除隊せず、軍に残ることになった。
そしてオスカーは念願のカノジョを手に入れるのだった。