235.敗北
《魔蟲王Side》
魔蟲王は、敗北を悟っていた。
この黒龍状態になった瞬間である。
時間停止を破られ、巨大化してみせたが、しかしこの体はデカくなっただけだ。
ガンマ・スナイプが時間停止に対応した段階で敗北は確定していたのだ。
それでも、認めたくなかったのだ。
自分が無駄だと、矮小だと断じて捨てたものに……負けるという事実が。
魔蟲王は人間をずっと見下していた。
愚かで、脆弱なるこの存在のことを。
……しかし人外となった自分を凌駕したのも人間だし、自分にとどめを刺したのも人間だ。
「リヒター……」
妹の仕掛けた超高性能爆薬。
大気中の酸素と魔素を吸って、無限に爆発する異次元の爆薬だ。
魔蟲王は体を焼かれながらつぶやく。
「私の負けだ」
黒い蟲たちが死んでいく。
ボトボトと落下していく。
光の網がそれら黒い虫たちを集める。
これは……ジョージ・ジョカリが作った虫かごの結界だ。
……妹が、兄が作った装置を流用しているのだろう。
人間を逃がさない結界を、蟲だけを逃がさない結界にしてた。
これが、人間の強さ。敗北から強さを学ぶ、力。
常に強者だったジョージ・ジョカリには無かったものだ。
「リヒター……」
黒い蟲が網の中に閉じ込められる。
「人間は……素晴らしかったんだね」
負けたというのに、ジョージの心の中は晴れやかだった。
かっ……! と下から破壊の光が波濤のように押し寄せる。
人型決戦魔導人形兵に載ったガンマが放った魔法矢だろう。
魔法矢は黒い蟲、そして魔蟲王ごと、一気に消し去る。
「君たちの勝ちだ、人類……」
ジョージの体が消えていく。
だが痛みをまるで感じなかった。
……やがてジョージの意識は消える。
呪いの言葉も、怨嗟の叫びもあげず、彼はこの世から退場したのだった。




