234.別れ
オスカーはリヒターを連れて、上空へとやってきていた。
ガンマの放った強化した竜の矢のおかげで、分厚い虫たちの防壁を突破できたのである。
久々に見る青い空の世界。
遠く離れた場所に、黒い球体が浮かんでいた。
『隊長、あの中にジョージ・ジョカリがいます』
ガンマの目はどうやら、地上にいても、あそこの中に兄が居ることを見抜いているようだ。
理屈は正直理解できていない。
どうして遠く離れた地上から、あそこに生物が居るとわかっているのか。
……だが、ガンマの目は人間を超越し、神に等しい物に進化してるのは知っていた。
だから、わかるのだろう。
「オスカー君、あそこまで運んでくれ」
「了解」
オスカーがエア・バードを走らせる。
魔蟲王にとってオスカー達は敵だ。近寄らせてはいけないはずだ。
……だが、こちらに向かって攻撃してくる気配はない。
「罠かな……?」
「……大丈夫。違うから」
どこか、リヒターは穏やかな表情をしていた。
そして黒い球体の前までやってきた。
「兄さん」
リヒターは球体に向かって言う。
「あなたの負けです」
兄からの返事はない。
その間にも、空には穴が開いている。
開いた穴を必死になって塞ごうとしてる……が。
明らかに間に合っていない。
「ガンマ君の相手で手一杯で、ぼくらを攻撃することができないのでしょう?」
やはり答えはない。
だが、もう誰の目にも魔蟲王が限界であることはわかっていた。
「兄さん……あなたの考え方は、間違っていたよ。この世界で一番強いのは、人間さ。あなたが、弱いと見下していた、その人間の弱さこそが……人を強くする力だったんだよ」
魔蟲王は答えない。おそらくもう、兄は現状を認識できていない。
彼に自我は残っていない。
リヒターは懐から黒い塊を取り出す。
そして、ぺたり、と球体に貼り付ける。
……迷いは無かった。覚悟は済ませてあったから。
「さようなら、兄さん。あなたは……ぼくの目標だったよ」
リヒターは涙を流しながら、オスカーの後ろに座る。
オスカーは静かにエンジンを始動させ、その場から離れる。
十分に下降して、距離を取ってから、オスカーは懐からスイッチを取りだして押した。
……瞬間、頭上から凄まじい爆音が鳴り響くのだった。