232.兄妹
《オスカーSide》
オスカー達帝国軍人は、小さな虫たちを銃で潰していった。
蟲はかなり弱い、銃弾一発で倒れるくらいにまで弱体化してる。
だが。
「切りが無いね……!」
オスカーがハンドガンで応戦しながら言う。
蟲が天から降り注ぎ続ける。
そのあまりの多さに辟易する。
かといって気を抜けない。
蟲が人型決戦魔導人形兵のなかに入らないように、防衛しないといけないのだ。
「兄は、おそらく強さを切り捨て、代わりに生産性を上げてるのでしょう」
リヒター隊長がアサルトライフル型魔法銃で応戦しながら言う。
「おそらく持久戦にもちこもうとしてるのです」
「持久戦……なるほどね」
相手は人外、体力は無限にある。
だがこちらはそうはいかない。
「1年……いや、100年単位で嫌がらせを行うのでしょう」
こんなのが100年も続いたら大変だ。1年やられてたって困る。
「我が兄弟の兵器による一撃で、一気に敵を殲滅できるんじゃあないのかい?」
「いや……殺しきれない可能性のほうがたかい」
確かにここまで細かく体を分裂させているのだ。
ガンマの狙撃でも、撃ち漏らしてしまうかもしれない。
「…………」
リヒターがうつむいてる。
なにかを、持っているのがオスカーにはわかった。
「それが、切り札かい?」
「………………ええ」
オスカーは直感していた。
おそらく、この人には、魔蟲王となった兄を完全消滅させる秘策があるのだと。
でも……それを使うのをためらっているのだ。
この段階になっても、リヒターは……。
兄であるジョージ・ジョカリを殺すことに、ためらっている。
「隊長……」
「わかってますよ、覚悟は決めてあります。兄に、とどめを刺す覚悟はね」
それでも、ためらってしまう。
だってそれは、彼女が人間だからだ。
彼女が、足踏みをしてる。
苦悩している。戦っている。
……そんな姿に、オスカーは敬意を抱いた。
……そして、そんな彼女を、守りたいと思った。
「兄弟! 聞いてくれ!」
オスカーが通信を入れる。
「今からリヒター隊長を連れて、魔蟲王のもとへいく。援護を頼む!」
「ちょ、オスカー君? 何を言って……?」
にかっ、とオスカーは笑う。
「あなたを、送り届けてあげるよ。兄の元に」
「……!」
「そして……最後のお別れを言うんだ。そして、ちゃんとあなたの手で、葬ってあげるべきだ」
リヒターは目をむく。そして……こくんとうなずいた。
「僕がエア・バードを操縦する! 後ろに乗ってくれたまえ!」
「ああ、わかった。頼むよ、オスカー君」
ガンマが頭上に向けって竜の矢を放つ。
空にあいた穴へ向かって、オスカーはエア・バードを飛ばすのだった。