219.暴走
《魔蟲王Side》
黒龍となった魔蟲王こと、ジョージ・ジョカリ。
天を覆い尽くすほどの巨大な体を手に入れた彼だったが……。
代わりに、知性を失っていた。
(殺すころすコロス殺す! 人間はミナゴロシ!)
理性を失った彼が望むのは、殺戮。ただそれだけだった。
科学者たる彼が最も失いたくないものを失う、という縛りを己に課すことで手に入れた、強大な力。
その力は絶大だった。
上空から降り注ぐのは、巨大な魔蟲群れ。
通常の魔蟲は4,5メートルほどの大きさ。
だが魔蟲王の体を構成してる魔蟲は、その10倍の大きさをしてる。
とはいえ、その魔蟲達はただの張りぼてに近い。
生み出されたはいいが思考を持ち合わせない。
人を食う、という本能すら持ち合わせていない。
ただ、巨大な質量の塊。
それを魔蟲王は生み出し、捨ててるのだ。命の無駄遣いともいえる行為だ。
魔蟲の雨は地上へ降り注ぐ。
巨大な魔蟲が上空から落ちる。その衝撃で、地上の建物は軽々と吹き飛んでいく。
地表には巨大なクレーターを作る。
建物の中に住んでいる人々は圧死する……はずだった。
(ころす……ころ、す……?)
魔蟲王は気づく。
人の悲鳴が、まるで聞こえてこないのだ。
だが、どうして、と考える頭が彼にはなかった。
……人間の叡智が、彼の野望……人類抹殺を阻んでいるのだと、今の濁った頭では認識できなかったのである。
人類の住む、六大陸。
その主要都市すべてを、透明なドームが覆っている。
結界だ。
魔蟲王の質量爆弾を、結界が防いでいるのである。