215.王の進化
俺は狙撃、そして仲間の力を借りて、魔蟲王を圧倒した。
やつの動きはすべてこの目が捕らえている。
やつがいかに時間を止めようと、関係ない。
『くそがぁああああああ! ふざけるなぁあああああああああ! 私はぁ……! 神になったんだぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
ボロボロの魔蟲王が、地べたに這いつくばりながら叫ぶ。
「何が神ですか、兄さん」
リヒター隊長が倒れている兄……魔蟲王を見下ろしながら言う。
「地べたを這い、喧しく叫ぶその姿の、いったいどこらへんに神要素があるのですか?」
リヒター隊長の瞳には、憐憫の色が見て取れる。
「今の貴方は、ただの害虫ですよ」
「がい……ちゅう……」
魔蟲王が怒りで声と体を震わせる。
びきっ、ばきっ、とやつの外殻にひび割れる。
「待避! リコリス、転移を!」
妖精のリコリスがうなずくと、転移魔法を発動させる。
俺たちがいたホールから、妖精郷にある世界樹の外へと転移した。
ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
世界樹の頂上から大爆発が起きる。
そこに居た……いや、あったのは、巨大な繭だ。
「あれは……繭。まさか……兄さん……この土壇場で進化を!?」
繭からは無数の糸が伸びていた。
糸は俺たち……ではなく、別のモノへと伸びていた。
「ぎゃああ!」「魔蟲王!?」「いったいなぜこんなことをぉお!?」
魔蟲や、魔蟲族たちに、糸がからみついていた。
そして蟲たちが全員、あの繭の中に取りこまれていく。
「……兄さん、魔蟲を食って、進化しようとしてる」
魔蟲王の捕食スピードは異常だ。
この世界にいる、自らが産んだ虫たちをすべて回収しているようだ。
迎撃をするまえに、繭にヒビが入る。
どがぁん! という破裂音とともに……。
上空に、巨大な黒い蟲が出現したのだ。
「あれは……トンボ? ハエ?」
例えるなら、龍だろうか。
龍の胴体、蟲の外殻と脚が生えている。
しかし顔は……ハエ。
様々な蟲が合体したそれは、まるで……。
「蟲の合成獣……ですね」
魔蟲すべてを取りこみ、合成獣となった魔蟲王。
『私を馬鹿にするやつはぁあああああああああああ! すべて滅びればいぃいいいいいいいいいいいいいいい!』