213.本質
魔蟲王が俺の言葉に、顔を真っ赤にする。
『人間……人間だとぉ! この私が!? 時間をも自在に操れる、この私がぁ……!!』
よし、いいぞ。良い感じに獲物の頭に血が上っている。
俺は背後を振り返る。リヒター隊長を見た。
彼女は一瞬戸惑ったものの、すぐさまこちらの意図に気づいたらしい。
「ええ、そうですよぉ兄さん。あなたは……所詮人間なんですよぉ。どれだけ力を付けようが、ね」
びきっ! とやつの額に血管が浮かぶ。
『貴様ぁ……! 誰に向かってそんな口をきいてると思ってるぅう!』
「ジョージ・ジョカリに、ですよ」
リヒター隊長のまなざしには明確な……哀れみが浮かんでいた。
「人の可能性を信じず、人であることを捨て……人に狩られる哀れなる獣に成り果てた、あなたに」
『獣……獣だとぉ!?』
魔蟲王が目の前から消える。
だが……。
ドゴォオン!
『ぐあぁああああああああああ!』
魔蟲王が背後に吹っ飛ぶ。
魔蟲王は時を止めて、リヒター隊長を殺す位置に、やつは移動していたのだ。
『どぉおおおおおおおおなってるんだぁああああああああああ!? こちらは時を止めていたのだぞ!? なぜ攻撃が当たる!?』
「簡単な理屈だよ。俺が、時間を超越するほどの、超スピードで狙撃してるからだよ」
『は? はぁあ!? どういうことだ!? 理解できない!』
理解できないか。
まあ俺も正直、最初リヒター隊長に教えてもらったときは、よくわからなかったな。
リヒター隊長が代わりに答える。
「ガンマ君の狙撃は、【光あるいは時を超える】ほどの早さを持つんですよ」
魔蟲王が理解できないように首をかしげる。
「魔蟲王。あなたは世界の時間そのものをとめている。けれど、ガンマ君の矢は時を超越する……つまり、時をいくらとめようが、彼の放った矢は、時間という理に縛られないため、時間が停止していても当たるのです」
この理屈、俺もそもそもそんなに理解できていない。
だが、時を止める能力が魔蟲王にあることは、リヒター隊長は想定していた。
で、その想定を超える対策として、俺は己の狙撃力を、魔蟲の装備と血によって底上げした。
結果、時を超える矢を打てるようになったのだ。
『か、仮にガンマの矢が時を超越するものだとしても! やつが狙撃する前に時を止めているのに、当たるのはどういう理屈なのだ!?』
「それなら簡単だ」
その理屈なら説明ができる。
「俺は、獲物の動きを読んでいるからだ」
生きてる獲物は、いろんなサインを、体から発してる。
目線、呼吸、筋肉の収縮具合。
それらから、獲物がどこへ行こうとするのか、予測することができる。
あとは簡単だ。
魔蟲王が時を止める瞬間、魔蟲王が動く先に向かって、先んじて矢を放てば良い。
時を止めてる間、俺は動けなくとも、矢は時を超越してるため……当たる。
「魔蟲王。おまえの敗因はただ一つ。おまえが、人間だからだよ」
いくら力を付けようと、人間を捨て去ろうと、ジョージ・ジョカリは人間としてこの世に生を受けたのだ。
いかに変態しようと、その本質は、変わらない。
「俺の……狩人の目は、獣のすべてを見切ることができる。おまえがいくら強い力を持っていようがな」
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