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21.新武器


 隊員メイベルの姉、アイリスとの模擬戦に勝利した。


 その後、俺たちはそれぞれ分かれて、荷物を部屋に置く。


 部屋数は限られているため、二人一組でペアになることになった。


 俺はオスカーと同じ部屋である。


 部屋は結構広く、ベッドが二つ置いてあった。


「来て早々模擬戦とは、君も災難だったね」


 ベッドに腰掛けたオスカーが、長い髪をさらっと手ですいて言う。


 災難とは思っていなかった。

 ただ……気がかりがあった。


「なあ……オスカー。メイベルとアイリス隊長のことなんだけど、なんか知ってるか?」


「うーん、言うてボクもそこまで詳しくは知らないよ。ボクが胡桃くるみ隊に入ったのも、君の二ヶ月前だし」


「そうか……」


「ただ、一度酒の席で聞いたことがある。アッカーマン家は代々、優秀な土魔法の使い手を輩出してる。そんな中で、姉のアイリス隊長は、土魔法の才能がなかったことが、鑑定でわかったその日に、家を出て行ったとね」

 

 確かに隊長が使っていたのは、メイベルのように魔導人形ゴーレムを使って動かす魔法ではなく、影を使った特殊なスキルだった。


「持たざるものが、持つものへ向ける感情なんて一つしかないだろ?」


「嫉妬、か」


「だろうね。だからメイベルを目の敵にしてるんじゃあないかい?」


 確かにそう考えると、つじつまが合う。

 あの目は、家族に向けるものでは決してなかった。


「でも……なんか、それだけじゃない気がすんだよな」


「それだけじゃない?」


「ああ、なんかひっかかるというか……」


「根拠は?」


「ない。狩人の勘ってやつだな」


 きょとん、としたあと、オスカーが苦笑する。


「君の勘は戦闘の時しか働かないんだね」


「んだよー、その言い方」


 オスカーを小突くと、嗤いながら立ち上がる。


「さて、そろそろ訓練に行こうかね」


 トレーニングウェアに着替えた俺たちが部屋を出る。


 ジャージという、最近開発した動きやすい服装だ。


 俺たちが廊下を歩いていると……。


「ハァイ♡」

「うほほい! リフィル先生! 服装がやぼったくっても、とてもお似合いですよっ!」


 オスカーが一瞬で近づいてリフィル先生に言う。


 確かに似合ってる……だが。

 相変わらず上着がくるしいのか、チャックをおなかのあたりまで下げている。


 一方で隣のシャーロット副隊長は、ぴっちりと首元までチャックをあげていた。


「おうおまえら。準備できたか?」


 リスのマリク隊長と、蜜柑みかん隊の隊長で分析官のリヒターさんが歩いてくる。


 隊長は上着だけジャージ、リヒターさんは白衣のままだった。


「やあやあガンマくぅん♡ さっきの模擬戦は見事だったよぉ~♡」


 桃色髪めがねの美女が、俺にぴったりくっついてくる。


 遠目だとひょろくて、あんまり女性な感じないけど、近くによると甘いシャンプーの香りがする。


 ぱしっ、とリヒターさんが俺の手を握り、顔がくっつきそうになるくらい近づける。


「やはり君の目は特別のようだ。あの短時間で敵の持つ能力、および弱点を看破してみせた」


「ち、近いですって……」


「ぜひともぉ! ぜひとも、ボクの部屋でたっぷりねっぷり、しっぽり……余すところなく調べさせて……あいたっ」


 シャーロット副隊長がリヒターさんの頭を叩く。


「……ジョカリ隊長、彼が困っています。おやめください」


 リヒター・ジョカリさんが「これは失敬」といって自分の頭を搔く。


「ボク、気になることがあるとついつい、執着してしまうんですよぉ……♡ ガンマ君のことはそれはもう……とびっきり気になって気になってしょうがなくて……♡ これが恋ってやつですかねぇ」


「馬鹿なこと言ってねえで、教練室へ行くぞてめら」


 マリク隊長を先頭に、胡桃くるみ隊の面々が後に続く。


 最後尾にはメイベルがいた。いつも快活な彼女が、今日は沈んだ表情をしている。


 やっぱり、姉との不和が原因なのだろうか。


「メイベル……大丈夫か?」


「えっ!? あ、うん! へーきへーき! さっ、訓練だよ!」


 無理してる感じがかなりするけど、今突っ込んでもしょうがないことだ。


 俺たちは教練室へと到着する。


 マリク隊長は台にのって、俺たちを見渡していう。


「それでは訓練を開始する。基礎的な能力の向上に合わせて、もう一つ、今回の合宿では試したいことがある」


「試したいこと? なにかね?」


「それは【魔武器まぶき】の実戦投入だ」


「まぶき……? 聞いたことないね」


 はて、とオスカーが首をかしげる。


 ぱちん、と隊長が指を鳴らすと、魔導人形ゴーレムが台車を引いて持ってくる。


 その上には指輪がいくつか置いてあった。


 俺はその一つを取る。


「指輪……ですか?」


「そうだ。対魔蟲用武器、略して【魔武器】だ」


「ただの指輪にしか見えないんですけど……」


「そこに魔力を流してみろ」


 俺は言われたとおり、指輪に魔力を流す。


 その瞬間、指輪が光り輝くと、1つの美しい黒い弓へと変形した。


「登録者の魔力に反応して、圧縮の魔法が解除される仕組みになってる。これなら持ち運びは楽だろ。ガンマ、ちょっと引いてみろ」


 俺は黒い弓を手にとって、構える。


 ……意外としっくりくる。


 弦をもって、引く。糸をはじく音が、驚くほど静かだ。


 だが軽いわけじゃ決してない。適度な重さと、張りがある。正直かなりいい弓だ。


 にゅっ、とリヒターさんが近づいてきて言う。


「その素材はですねぇ、魔蟲から作られてるんですよぉ」


「魔蟲から?」


「そぉ。魔徹甲弾ピアシング・バレットと同じ発想ですよぉ。敵の魔蟲と同じ素材から武器を作ることで、より強力な装備となる」


 確かに、この弓なら持ち運びは楽だ。


 けど……。


「気に入らない、ですかぁ?」

「あ、いや……悪くない弓だとは思います。ただ俺には、妖精弓エルブンボウが……」


「ガンマ君。ボクはね、君はもっともっと強いと思ってるんですよぉ」


「? どういうことですか?」


「簡単な理屈さ。君の強さが、君の弓を上回ってる。君はあの弓にこだわるばかりに、あの弓が壊れないよう力を制御してるのさ」


 俺の力が……。


 確かに、妖精弓エルブンボウはガキの頃から使ってる弓だ。


 俺の体は成長していても、エルブンボウは昔のまま。


 体の成長にあってない……のか。


 俺が弓を握ってると、にゅっとリヒターさんが顔を覗かせる。


「その魔弓は、先日ガンマ君が倒した魔蟲族をごりごりっと削って作ったものです」


「ま、魔蟲族って……人型サイズの蟲じゃあ……それを削ったのかい?」


「はい♡ それはもう、ゴリゴリっと♡」


 オスカーが珍しくドン引きしていた。

 俺もなんか使うのがいやになってきたな……。


「魔蟲族の固い外皮を使ってる割に、手になじむ軽さなんですけど?」


「魔道具師であるマリクさんが付与した優れものですよぉ。どうです、使ってみてくれませんかねぇ」


 俺は隊長を見やる。ふぅ、と彼は息をつく。


「使う使わないの判断は任せる。だが、リヒターの見立て通り弓がおまえの体についてってないのは事実だ」


「……そう、ですね」


 使い慣れた弓を捨てる、わけじゃない。

 より適した武器を使えれば、今よりもっと仲間を助けられる。


「わかりました。ありがたく、ちょうだいいたします」


「ちょおっと試射してみてくださいよぉ♡」


「そうですね。かるーく……」


 俺は弦を軽く弾いて、壁に向かって放つ。


 ビシッ……!


「「「は……?」」」


 ひび割れた壁を見て、隊のみんなが呆然とする。な、なんだこれ……?


「おー! すんばらしい! まさか矢をつかわず、弦をはじいた空気だけで壁にひびいれるなんて!」


「なんだそら……これでもし、本気で弦を弾いて、普通の矢を使ったら……? 魔法矢だったら……?」


 もしかして、とんでもない威力になるんじゃないか?


 え、もしかして……俺って、大事な弓が壊れないように、力をずっとセーブしてたわけ?


「ま、気づいたんならそれでいいじゃあねえか。よーし、おめえらの分も魔武器あっから、各自手に取って試してみろ!」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 前の回でも思ったけど、クッソ硬い外皮をどうやって加工したの?
[良い点] 主人公が弓を使うところが良い発想だと思いました。主人公が弓使いとは珍しいですね。しかも、強いと来ている。
[気になる点] にゅっ、とオスカーさんが近づいてきて言う。 ここ多分オスカー君じゃない気がする。
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