200.説得失敗
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狩人、漫画版がスタートしてます!
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魔蟲王の胎児に、自分の脳を移植した、ジョージ・ジョカリ。
「兄さん……あなたは……一体これから何がしたいんですか?」
リヒター隊長が、兄である、ジョージに尋ねる。
「貴方の目的は、人間を超越する存在を作ることでした。……あなたはその目的をかなえた」
確かに、魔蟲となることで、人間をこたえた。
目的は果たしたと言える。
「知的好奇心は満たされたでしょ? ねえ……もう、いいでしょ」
……弱々しく、隊長がつぶやく。
そこにいたのは、リヒター隊長ではなく、リヒター・ジョカリ。
軍人ではなく妹として、兄に語りかける。
「もう……十分楽しんだでしょう? なら……」
……隊長の拳が震えている。
……やっぱり、この人は兄を殺したくないんだ。
「確かに、私は魔蟲の王となったことで、目的を達成した。私が投降し、魔蟲どもに人を襲うなと命令すれば、軍部が私を処分する必要はなくなる。もっとも、拘束はされるだろうけれどね」
ジョージ・ジョカリは自分の置かれてる立場を、そして……妹の殺したくないという思いも、理解してるようだ。
「なら……」
……でも、リヒター隊長の表情は、明るくない。
まるで、兄がどう答えるのか、わかってるようだ。
「しかし私は投降なんてしない」
にぃ……とジョージ・ジョカリが笑う。
リヒター隊長の、やっぱり……といった感じの、諦めの表情が、見ていて悲しくなった。
「せっかく人を超えたのに、なぜ人に縛られる必要がある? 今の私には翅があるのだ。この世界を、自由に飛び回れる翅がね?」
「…………じゃあ、なにがしたいのさ!? 兄さん!」
「全人類の魔蟲化だよ」
………………何を言ってるのだ、こいつは?
全人類の、魔蟲化……だって……?
「ガンマ君、そしてガンマ君を追放したあの男……ええと、名前はどうでも良い。彼らから着想を得た。人を魔蟲にする技術を。そして……魔蟲王となったことで、それが可能となった!」
にぃい……とジョージ・ジョカリが笑う。
その表情からは、本気……いや、狂気を感じさせた。
「人を殺し、そして魔蟲へと改造する! 全人類を私と同じレベル……つまり魔蟲にする! そして、魔蟲の王たる私が! この星を支配するのだ!」
……そうか。
全人類を魔蟲にすれば、魔蟲の王たるジョージが、人類を支配できるのか……。
魔蟲は王に従う習性があるからな。
「……結局、世界征服、なんて……陳腐な目的のために、今まで暗躍してきたんですね。なんて……くだらない!」
リヒター隊長が、兄をにらみつける。
そこには……覚悟がこもっていた。
「皆さん……新たなる魔蟲王は、人類を皆殺しにしたあと、魔蟲にして、支配するつもりのようです。あいつは……もう人間ではない。説得には応じませんでした」
言葉で、相手を説得できなかった。
ならもう……。
「やるしか、ありません……」
リヒター隊長が、自分にそう言い聞かせてるように、俺には聞こえたし、事実そう見えた。
でももう、やるしかない。
「ジョージ・ジョカリ」
俺は弓を持って、前に出る。
「俺は……いや、俺たちはあんたを、駆除する。人間として。軍人として!」
狩人として、ではない。
狩人はただ己の獲物を得るためだけに、弓を引いた。
でも今ここにいる俺は、軍人。
人類を守るのが、俺の使命!
「残念だよ、ガンマ君。君なら私の優秀な右腕になれると思ったのに……いいだろう」
ジョージ……いや、魔蟲王が翅を広げる。
「最後の戦いといこうか」