2.旧友との再会(皇女を添えて)
俺はSランク冒険者パーティ【黄昏の竜】を追われた。
「はぁ……参ったなぁ……」
俺は現在、隣町へ向かう馬車に乗っている。どうして王都を離れることになったのか。
それは、王都で俺を雇ってくれるやつが、いなかったからだ。
仕事を追われた俺は、次の冒険者として、パーティを組んでくれる人を探した。
しかし誰も俺と組んでくれる人はいなかった。どうやら黄昏の竜リーダー、イジワルーが原因らしい。
やつはほかの冒険者パーティに圧をかけて、俺がほかの奴らと組めないよう嫌がらせしているらしい。
また、ソロで活動も検討したんだけど、俺に仕事をくれる人はいなかった。そこもイジワルーが手を回していたらしい。もうおまえんとこで仕事してやんないぞ、と。
「そこまでする必要ないだろ……はぁ……」
イジワルーはよっぽど、俺をパーティにおいておくことがいやだったみたいだな。
いなくなってせいせいした、と今頃喜んでいるんだろう。ならもうそれでいいだろ。なんでここまで嫌がらせすんだよ……はぁ……。
「これから、どーすっかな」
いちおう王都を出たものの、ほかの町も同じような状況な気がする。
Sランク冒険者といえば、このゲータ・ニィガ王国において数えるほどしか存在しない。
彼らの影響力は国内にも及ぶ。あいつらのパーティを追われたとなれば、この国の人間じゃ雇ってくれないだろうし、仕事も回してもらえないだろう。
「なら……隣国でもいくか?」
ゲータ・ニィガ王国の隣には、マデューカス帝国と呼ばれる実力主義の巨大国家が存在する。
……だが、そこに何のつてもコネもない俺が、どうやってそこで仕事を見つけよう。
「マデューカス帝国以外だと、獣人国ネログーマか、砂漠エルフのフォティアトゥーヤァか……いや、だめだ。どっちにしろコネがない」
まずい、非常にまずい。俺一人だったら、別にどこに住んでも生きていける。獣を狩って生きていけばいいんだからな。
でも……俺には病気の妹がいる。彼女の薬代を稼ぐ必要がある。金がいる。仕事がいるんだ。
くそ……どうすりゃいいんだ……。
と、思っていたそのときだ。
「ん? 【鳳の矢】が発動した?」
俺はスキル【鷹の目】を発動させる。
これは周囲1キロを鳥瞰できるようになる、特殊な狩人のスキルだ。
これに、狩人としての元々の目の良さも加わることで、100キロ先を見通すことも可能となる。
鷹の目を使って、鳳の矢が発動した場所を見やる。そこには、やたら高そうな馬車があって、その周りを白狼の群れが取り囲んでいた。
「Cランクの獣か……」
まあ俺が助ける義理は、全くない。これを狩ったところで金にはならないだろう。
素材を買い取ってくれるギルドも、イジワルーからの圧力を受けて、素材を買い取ってくれなかった。
……だから、これは。
「ただの趣味だ」
俺は馬車から飛び降りる。
じいちゃんからもらった、【妖精弓エルブンボウ】。俺の相棒だ。
森の妖精が作ったと言われる、翡翠色の長弓を構える。
矢は、必要ない。俺は弦をつまんでひく。
すると銀色の矢が俺の前に出現する。
「【星の矢】」
魔法矢。魔力を使って作られる、特別な効果を発揮する矢のこと。学園で習った技術だ。
天に向かって銀の矢を放つ。
それはすさまじいスピードですっとんでいく。
馬車を襲っている敵の群れの頭上で……。
ドバッ……! と矢は分裂し地上へと降り注いでいく。
星の矢は、魔法矢のひとつ。
放った魔法の矢が頭上で無数に分裂し、地上の敵を射貫く魔法矢だ。敵の数が多いときに使う。
星の矢は結構扱いが難しい。なにせこの矢は分裂して落ちる、ただそれだけなのだ。
だから使い慣れてないと、関係のないやつまで巻き込む羽目となる。だが俺の弓使いとしての技術が合わさることで、敵だけを正確に射貫くことができるんだ。
「ふぅ……」
ま、これで助けたとしても、どーせ気づかれないんだよな、俺が助けたってことにはよ。
俺の乗っていた馬車は、とっくに俺をおいてどこかへ行ってしまった。
「しかたない、歩くか。馬車の人たちの様子も気にはなるし」
俺は徒歩で町へと向かう。しばらく歩いていると、件の馬車が前からガラガラと近づいてきた。
どうやら無事だったようだ。まあそうならないように射ったので、当然っちゃ当然だが。
「ま、待って! 御者さん、馬車止めて!」
すると、馬車が俺の前で止まる。
なんだ、どうして止まった? てか、今の声……どこかで……。
「ガンマ! ガンマでしょ!」
馬車の中から、一人の、小柄な女が降りてきた。
白いマントを身につけ、赤い髪をショートカットにしてる、小柄な女だ。
身長が低い割に胸がでかい。ロリ巨乳ってやつだ。
「久しぶりね、ガンマ!」
「……めい、べる」
「そう! メイベル・アッカーマン!」
快活そうな笑みを俺に向けてくる。
こいつは、メイベル。
アイン王立学園にいたときの旧友だ。
「メイベルじゃねえか! 久しぶりだな」
学園時代、同じクラスだった。実習の時以外はほとんど、メイベルと一緒にいた。
確か家が名門の魔法使いの家だった気がする。火の魔法を得意としていた。
「卒業式以来じゃないか」
「ね! よかったぁ、あたしのこと覚えててくれて」
「当たり前じゃないか。友達の顔忘れっかよ」
もう一年くらいたっていても、この子の顔は忘れない。
「おまえ今何やってるんだ?」
「マデューカス帝国の軍で働いてるの」
「軍部で! エリートコースじゃないか」
「へへ、まーねー」
久しぶりの旧友との再会に喜ぶ一方で、ふと疑問が口にでる。
「メイベル。おまえこんなとこで何してるんだ?」
「護衛だよ、ごえー。彼女のね」
「彼女?」
すると、やたらと豪華そうな馬車から、誰かが降りてくる。
ドレスの上からフードつきマントを羽織っていた。
「はじめまして。あなたが、メイベルのおっしゃってらした、ガンマ・スナイプさん、ですか?」
声の感じからして若い女のようだ。
「あ、ああ。俺がガンマだけど……あんたは?」
すると、ぱさ……とフードを取る。
そこにいたのは、つややかな長い金髪の女だ。
青い瞳に金の髪の毛は美しく、メリハリのあるボディと、そして高貴な顔つきは……思わず、見とれてしまうほどだ。
「初めまして。私はアルテミス=ディ=マデューカスと申します」
「はぁ……どうも。ガンマ・スナイプです……マデューカス?」
名字に、なぜ帝国の名前が入ってるんだ……?
……あれ?
「ちょっとガンマ! もっと礼儀正しくしなきゃだめよ! 相手は皇女さまなんだから!」
「はぁ!? こ、皇女!?」
するとアルテミスと名乗った女は微笑みながら、一礼して、言う。
「はい。アンチ=ディ=マデューカスが娘、第八皇女アルテミスと申します」
どうやら俺が偶然助けた女は、現皇帝の娘だったようだ。