188.魔物化
神聖皇国とマデューカス帝国は同盟国のはずだった。
しかし、皇国は帝国を裏切り、魔蟲を帝国内に引き入れた。
つまり……帝国軍であるオスカー達からすれば、敵ということになる。
「慈悲はかけないよ、リューウェン。君は我が友の愛する女を連れ去った」
メイベルを連れ去ったのはこの男である。
オスカーにとってガンマは、同僚であると同時に、戦友でもあった。
それゆえ、リューウェンの行いを、許すことができない。
「……それは申し訳ない」
リューウェンはあっさりと頭を下げる
。
彼は苦悶の表情を浮かべていた。
人間的な部分が見えて、一瞬だけ警戒を解く……。
「オスカー! 避けろ!」
ぐぉおおおお! と地面から太い木の根っこが生え、こちらに襲いかかってきたのだ。
オスカーはそれをギリギリで回避する。
マリク隊長の忠告が無ければ、敵に捕縛されていたところだろう。
「に、にげ……げにげにげ……に……げ……」
「リューウェン……君、身体が……」
オスカーは絶句する。
リューウェンの身体が、巨大な樹木に取り込まれていた……。
否、リューウェン自身が、巨大樹に変化させられていたからだ。
「どうやら、ジョージ・ジョカリによるものらしいな……」
マッドサイエンティスト、ジョージ・ジョカリは、魔蟲(※魔物)と人間の合体を研究していた。
リューウェンは魔物……恐らく人面樹と無理矢理合体させられたのだろう。
「むごいことしやがる……」
「まったくだね」
しかし、オスカーにとっては戦いやすくなった。
人間相手だと、銃を向けるのにためらいが生じる。
目の前に居るのは完全な化け物だ。
加えて、メイベルを連れ去った張本人でもある。
彼に情けをかける気は、オスカーから消え失せた。
「悪いけど……君を魔物として、排除させてもらうよ」