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18.合宿前、女子チームと買い物



 魔蟲を討伐した、その日。


 俺たち胡桃くるみ隊の詰め所にて。


「「「合宿!」」」

「そう、1週間の強化合宿だ」


 メンバーたちが集まっていた。

 みな喜色満面となって、両腕を上げてる。


「やたー! 合宿合宿!」

「場所はどこかね、海かね山かねー!」


 隊員のメイベルとオスカーがはしゃぎまくってる。


 別に遊びに行くんじゃないんだが……。

 テーブルに座ってるリスこと、マリク隊長がため息交じりに言う。 


「場所は軍所有の合宿所を使う。元々駐屯地だった場所で、寝泊まりするとこもあるし、少し離れたところには町が、そして近くには海がある」


「「海……!」」


「おいおい遊びにいくんじゃあないぞてめえら」


 隊長……そのくせ、自分は浮き輪を腰に巻いてる。


 遊ぶ気満々だこの人……いや、このリス……!


「出発は来週だ。それまでに各自準備をしておくこと。食料、寝具は向こうにあるから、それ以外の個人的な持ち物をそろえとけ。特に……! 女性隊員は水着を新調すること。これは隊長命令だ」


「職権乱用だろあんた……」


「ふっ……何を言ってるガンマ。これは男性隊員の士気をあげるために必要なことなのだよ。ということでエロい水着を買うこと……!」


「どうせ自分がエロい水着を見たいだけのくせに……」


 作戦中はしっかりしてるリスだけど、それ以外のときはただのセクハラ親父だよな、マリク隊長って。


 案の定、女性陣から冷ややかな目で見られている。特にシャーロット副隊長は、路傍のゴミでもみるような目だ。


 くいくい、とメイベルが俺の腕を引く。


「ねえ、ガンマ。君は……その、え、えっちな水着のほうが、いいの?」


「な、なんだよ急に……」


「答えて! 重要なことなのっ!」


 任務でもないのになんだこの真剣な表情は。


 しかもリフィル先生も、シャーロット副隊長も、こちらをじーっと凝視してる。


「え、っと……」

「イエスかノーかで答えて!」


「何でその二択……」

「イエスおあノー!」


 いやそりゃ……。俺だって男だし、エッチな水着……興味はある。


 特にメイベルはスタイルもいいし、そういう水着は似合いそうだ。


 だが、だがなぁ……。口にするのは恥ずかしい。


 だが、イエスかノーかで聞かれて、答えないのはちょっとそれはそれで……。


「い、イエス……で」


「「「なるほどっ」」」


 女性陣がよくわからんが、納得したようにうなずいた。


「はーい、今日仕事おわったら水着かいにいくひとー♡」


「はいっ! 行きますせんせー! あたしも買う!」


「……では私も同行いたしましょう」


 なんだか知らないが、女性陣はそろって買い物へ行くらしい。


「ハイハイハイ! おれも同行……ふぎゅうううう!」


「……隊長は着替えを盗撮する可能性があるのでついてこないでください」


「誇りある……帝国軍人が……のぞきも盗撮も……しましぇえん……」


 ぱっ……とシャーロット副隊長がマリクのおっさんを離す。


「ふっ……ではボクの出番かな。ボクの美的センスが要求される場面……」


「いらない!」「必要ないかなー♡」「……オスカー君は今日残業ですよ。書類仕事おわってませんので」


 がっくし……とオスカーが肩を落とす。

 なにやってんだか、馬鹿なやつめ……。

「とゆーことで、ガンマっ。水着買いにいこー!」


「「なにぃいいいいいいいいいいい!?」」


 隊長とオスカーが声を荒らげる。


「なんでガンマはよくって、おれらはだめなんだよ!」


「不公平だ! 差別だ! ひいきだ!」


 ぶーぶー不満をたれる二人に、メイベルがため息をつきながら言う。


「ガンマはあんたらとちがって、邪念がないから」


「そうねぇ♡ 男の子視点もほしいし♡ ガンマちゃんなら安全だから♡」


「……是非とも意見がほしいですね。同行をお願いしたいです」


 え、ええ~……。

 男の視点って。いるのかそれ……?


「ガンマいこ! 仕事おわったら暇でしょ? ね! ね! ねー!」


「わ、わかったよ……」


「やった~!」


 まあ特に用事もなかったから、いいけどさ。


    ★


 その日の仕事終わり。

 ロッカーで私服に着替えて、帝城の門の外で待ってると……。


「ガンマー! おまたせー!」


 赤髪ショートカットの美少女が、手をぶんぶんぶん! と振りながらこちらに駆けてくる。


「メイベル……」


 彼女は私服だった。薄手のふわっとした長袖シャツにミニスカート。


 サスペンダーでスカートをとめて、頭には丸い帽子。


「ご、ごめんガンマ……ほんとはもっと可愛い服にしたかったんだけど、急だったから……」


「え、いや普通に可愛いけど」


「ほんとっ! ぅ~~~~~~! やたー!」


 活発なメイベルに、今の格好はとても似合ってる。かわいい。


 そしてぴょんぴょんと跳ねるたびに、その立派な胸がゆれ、目のやり場に困る。

「おまた~♡」

「……お待たせいたしました」


 軍医のリフィル先生と、副隊長のシャーロットさんも私服姿で現れる。


 といっても、リフィル先生は白衣を脱いだだけだ。


 ノースリーブのシャツにタイトスカート。


 シャツのボタンを4つもあけて、大胆に胸を露出している。め、目のやり場に困る……。


 一方、シャーロット副隊長はロングスカートに長袖シャツ。薄手のカーディガンを羽織っていた。


 いつもバレッタでまとめている髪の毛をほどいている。


 いつもは仕事できるお姉さんだが、今はなんだか、いいとこのお嬢さんに見える……。


「む~。ガンマ~。ふくたいちょーに見とれすぎじゃないですかー?」


「あ、いや……すみません」


 シャーロット副隊長は「いえ、お気になさらず」と眼鏡の位置を直す。


 相変わらずクールな人だ。


「……さ、参りましょうか」


 こつこつ……とヒールをならしながら、副隊長が帝都の繁華街へ向かって歩いて行く。


 それを見て、リフィル先生がにまーっと笑う。


「ガンマちゃんやるぅ~♡」

「え、なんです?」


「シャーロットちゃん、めっちゃ照れてるわよ~。いつもなら後ろからついてくるのに、今日は一人で先に行っちゃってるのがいい証拠ね。顔見られたくないのよ」


「て、照れることなんてあるんですか、あの人……?」


「意外とうぶなのよ♡ ふふっ♡ さ、いきましょっか♡」


 ぎゅっ、とリフィル先生が俺の右腕にしがみつく。


「ちょっ!? リフィルさん……俺半袖……」


「ん~? 半袖だからなぁに♡ 生乳が当たって照れちゃうのかな~? かーわいい♡」


 するとメイベルがぷくーっとほおを膨らませて、逆側の腕に抱きついてきた。


「いこっ、ガンマっ」

「な、なんで押しつけてくるんだよおまえ……」


「ガンマのせいでしょっ」

「ええー……俺何もしてないけど……」


 きっ、と今度は先生をにらみつける。


「せんせーはボタンとめて! 歩くセクシャルハラスメントだよ!」


「しょうがないじゃない、胸がおっきくて、入る服がないのよ♡」


「じゃあ大きめの服きればいいじゃないですかー!」


「それだとなんか野暮ったく見えちゃうのよねぇ。いいじゃない♡ 涼しいし、ガンマちゃんも喜んでるみたいだし♡ ねー♡」


 同意を求められても困る……。

 シャーロット副隊長がため息をついて、こちらを見ていう。


「……馬鹿やってないでさっさと行きますよ」


「「はーい」」


 みんなで歩き出すと……。

 副隊長は氷のナイフを作り、ひゅっ……! と俺の背後に向かって投擲。


 俺の後ろになぜかいた、オスカーとマリク隊長の肩に刺さった。


 そこから一瞬で凍結し、二人が身動きをとれなくなる。


「ちくしょう! ばれてたなんて!」

「くっそ! おいガンマ! チクったな!」


「いや、別に俺何も言ってないですけど……」


 まあ二人がなぜかこっそり、こちらの様子をうかがっていたのは、気配からわかったけど。


 するとシャーロット副隊長が言う。


「……ガンマさんのおかげで、あのバカ二名に気づけました。さすがの気配察知能力ですね」


「え、俺何も言ってないですけど……」


「……あなたが背後のバカに気づいた、というのを、表情から察しました。逆に言えばあなたが居なかったら気づけませんでした」


 俺の背後で、氷付けになった男子二名が「「おれらもつれてけー!」」とわめく。


「だめだよたいちょー、それにオスカーも。変態だもん」


「そんな! ボクは変態ではないぞ! 変態紳士だよ!」

「おれも変態じゃないぞ! かわいいリスちゃんだよ!」


「はいはい、ムシムシ。さ、いこガンマ~♡」


「「くそぉおお! ガンマぁああああ! 後で覚えてろおぉおおおおおおおお!」」


 背後で凍りづけになった二人が血の涙を流している。


 なんか申し訳ない……。


「こっそりつけてくるなんて、サイテーだよ!」


「まあまあ、男の子ってみんなバカでスケベな生き物だからね~♡」


「……私はああいう軽佻浮薄な輩より、真面目なガンマ君のほうが好感が持てますね」


「あらあら♡ ガンマちゃんのほうが好きってことかしら~?」


「…………」


「照れちゃってまー♡」


 俺は女子に囲まれながら、買い物へと向かうのだった。

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