173.これから
帝都を魔蟲族が襲撃してきた。
ヴィクターを討伐した後、俺たち胡桃隊は一旦合流する。
マリク隊長、シャーロット副隊長、衛生兵のリフィル先生。
そして隊員の俺、妹のフェリサ、オスカー。
ここにメイベルを加えた七人が、胡桃隊だ。
場所は帝城の地下、胡桃隊の詰め所にて。
「ガンマさん、皆さん」
「アルテミス……」
皇帝の娘、アルテミス=ディ=マデューカスも集まっていた。
元々、胡桃隊はアルテミスの私設部隊ということで編成されたのである。
隊長がアルテミスを呼んだのだろうか。
彼女にも現状を伝えておくという判断だろう。
「シャーロット。状況報告だ」
マリク隊長がそういうと、シャーロット副隊長がうなずいて言う。
「……帝都に張られていた鳥かごのような結界は、現在、破壊されて消滅しました」
生誕祭の途中、突如として結界が帝都を包み込み、そこへ大量に魔蟲、魔蟲族が流れてきたのである。
「……襲撃してきた、魔蟲族の護衛軍どもは我々胡桃隊が各個撃破しました」
「と言ってもいても、ガンマがいなかったらやばかっただろうけどね」
目を使って敵の弱点を見破ったり、遠隔で戦闘補助などしたりした。
その結果、胡桃隊は魔蟲族を倒せたのである。
「帝都内の魔蟲族は撃破。死者数はゼロ。負傷者は多かったですが、リフィルが全て治療しました」
先生は人外魔境へいってから、魔族としての力を解放していた。
以前よりも強い治癒の力を使えるようである。
そのおかげで、魔蟲族による大規模な攻撃を受けても、死傷者数が最小限に抑えられたのだろう。
「魔蟲族は殲滅。ただ……メイベルを含め、かなりの数の帝都民が、魔蟲族によって連れ去られました」
……メイベル。
俺をこの部隊に誘ってくれた……。俺の、愛しい女性……。
絶対に取り戻す。
「これは極秘事項ですが、父も……連れ去られました」
「!? それは……本当なのですか?」
アルテミスが沈痛の表情でうなずく。
なんてことだ……
「どーやら敵さんの狙いは、そもそもが皇帝の拉致みてーだったようだな」
……メイベルは、ついでか。
……舐めやがって。
「まあ落ち着けガンマ。メイベルも、皇帝陛下も、連れさられた人たち全員、おれらが助けるんだからよ」
……隊長は激高する俺に気づいて、冷静になるよう促していたのだ。
いけない。狩人は、冷静さを必要だというに。
「ただ今回の作戦は、おれらだけで動くぞ」
「どうしてだい隊長? 胡桃隊以外も動けるでしょ?」
「オスカー。皇帝拉致の件は現状、おれらしかしらねえんだ」
……なるほど、情報流出をシャットアウトしてるのか。
他国にそんなことを知られてはいけないものな。
「それに大人数で出て行って、手すきの帝都に攻めてくるかもしれない。あのジョージ・ジョカリならやりかねん」
蟲に魂を売った、くそ男だ。
あいつのせいでメイベルが連れ去られた……害虫め。
「つまり、だ。現状をまとめると、皇帝陛下を含めた帝国民が現在、魔蟲族のアジトに連れ去られた。が、動かしていいのは胡桃隊のみ」
「敵の居場所はわかってるのかしら?」
リフィル先生が言うと、シャーロット副隊長がうなずく。
「……現在、アイリス隊長が追跡中です」
メイベルの姉、アイリス隊長が、俺たちが魔蟲の相手している間に、メイベルを追跡してくれている。
「早晩、アイリスからこっちに情報が入る。それまで一旦待機。居場所が割れたら胡桃隊でソッコーで助けに行く」
「でも……助けに行ってる間に、こっちの指揮は誰がとるんですか?」
胡桃隊は対・魔蟲のスペシャリストだ。
裏を返せば、魔蟲どもとの戦闘にかけて、他の部隊の人たちは素人に近い(リヒター隊長の武装のおかげで戦えはするけど)
「助っ人を呼んでるぜ。はいってくれ!」
がちゃ、と扉が開くと、そこにはこないだあった女性がいた。
「アカシア元隊長……」
今はバーで働いてる、元胡桃隊の隊長がいた。
アカシアさんはため息をついていう。
「隠居した身なんだけどね。ま、いいよ。こっちのことは任せな」
元とはいえ、魔蟲との戦闘経験のあるアカシアさんがいれば心強い(銃の発案者でもあるし)
マリク隊長は、まとめるようにしていう。
「やることは単純だ。敵陣に攻め込み、大事なもんを取り返す。わかったな、野郎ども」
俺はうなずき、そして……ぎゅっ、と拳を握りしめる。待ってろメイベル。今……助けにいく。




