171.武人の散り際
俺は剛剣のヴィクターを討伐した。
謎の力による覚醒、そして力を完全にコントロールしたことで、勝つことが出来た。
……裏を返せば、その覚醒がなければ俺は負けてた。
覚醒とはつまり、偶然の産物。
俺が勝てたのは、たまたま力に目ざめたから。
自力の勝負では、負けていた。
「だから……ヴィクター。あんたの勝ちだよ」
「ふ……馬鹿を言うな。勝者は貴様だ」
あれだけの攻撃を受けても、ヴィクターは生きていた。
だが、瀕死の重体であることはわかった。
体中が穴だらけ。
体のパーツは無数に欠けている。
呼吸の速度が徐々に遅くなっている。
間もなく、死亡するだろう。
「あの力は元々貴様に備わっていた力だ。覚醒とはその力を引き出すトリガーにすぎん。たまたまおまえが勝ったのではない。本来の力を引き出し、御したから勝てた。つまり、勝つべくして勝ったのだ」
……やけに俺を褒めてくるな。
そういえば、こいつはジョージ・ジョカリのように、卑怯な手を使わず、正々堂々と真正面から攻めてきた。
そこの一点において……俺は彼に、敬意を払った。
「なあ、ヴィクター」
「断る」
……敵のアジトの居場所を言え、というつもりだった。
言えば、命は助けるって。
でもヴィクターは俺がそういうことを予期して、断ってきたのだ。
「我は、死んでも仲間の居場所は吐かない。女王陛下を守る、護衛軍として」
……そうか。
こいつが仕える女王の場所は、言わないか。
「だが……仲間ではないもののアジトがどこにあるかは言える」
「……?」
「北西に進んでいった先、王国の領土にゴチの大森林という場所がある。そこに、あのイカレタ科学者がいる。メイベルもそこにいるだろう」
「! おまえ……」
ふっ……とヴィクターが笑う。
「勘違いするな。勝者に対して対価を払っただけだ。それに、女王陛下や仲間の場所を吐いたわけではない」
ジョージ・ジョカリはあくまで、魔蟲族の一員ではない、といいたいらしい。
「ヴィクター」
最後まで、卑怯な手を使わないどころか、敵である俺に賛辞を送り、そして……敬意を払ってくる。
「ありがとう。強敵がいたから、俺は強くなれた。あんたがいたから……俺は、大事なものを取り返せる」
他の連中が、連れ去られたメイベルの居場所を吐いたとは到底思えないからな。
「ガンマ・スナイプ。最後に、心躍るような、ひとときを過ごせた。貴様と殺合えたこと……心から感謝する」
目を閉じて、長く息をする。
「……申し訳ありません、陛下。我はここまでのようです。最後に……どうか、長く生きてください」
それだけ言って、ヴィクターは息を引き取った。
最後の最後まで、こいつは敵であったけど……。
卑怯者でも、裏切り者でもなく、最後の最後まで敵でありつづけた。
最後まで正々堂々と戦ったヴィクターに……
俺は敬礼をしたのだった。