169.進化の予兆
《ヴィクターSide》
剛剣のヴィクターに課せられた役割。
それは、この脅威の男の足止めだ。
現代において、空の覇者ともいえる魔蟲たちにとって、この狩人は危険極まりない存在だ。
驚異的な射程を持つ弓使いなど、ありえない。
弓は魔法に劣る武器だと思っていた。
でも……この男のうつ矢は違った。
あり得ない早さでとんでくるし、ありえない正確さで敵を打ち抜いてくる……。
魔蟲族たちの、天敵とも言える男。
それがガンマ・スナイプ。
魔蟲族の協力者、ジョージ・ジョカリもガンマには一目置いていた。
それゆえ、魔蟲族の王護衛軍のなかで、最高の硬度と膂力を持つヴィクーが足止めの役割を与えられることになったのだ。
殲滅や、排除ではない。
足止めなのだ。それほどまでに、敵視してるのだ、こちら側は。
ヴィクターもガンマのことは認めていた。
人外魔境の地での一騎打ちの際に、ガンマの強さに舌を巻いた物だ。
そして……二戦目。
ガンマは新しい力に振り回されており、前回ほどの脅威には感じていなかった……。
はず、だった。
「っ!」
ヴィクターの眉間を狙った、正確な矢が飛んできたのだ。
ヴィクターは避ける……だが。
避けた先の地面がへこんでいた。
「なっ!?」
体勢を崩したところに……。
びごぉおおおおおおおおおおおおおお!
「竜の矢!?」
ヴィクターはもろに竜の矢を受ける。
「っぐあああああああああ!」
彼の固い鎧がはじけとんだ。
おかしい……闘気で鎧を防御してたはずだった。
……まさか。
「まさか……ガンマ……!」
改めて彼の姿を見る。
弓を持つ手が、魔蟲の外殻で覆われていた。
以前はそこだけだった。
だが今は……左目が、前とは異なっていた。
緑色に輝いている。
「なんだその輝きは……」
目の周は、仮面のようなもので覆われている。
目元、しかも左目だけだが……。
「侵食……!」
ガンマには魔蟲族の血が流れている。
それにガンマは振りまわされていた。
パワーがありすぎて、精密動作生を欠いていた……はずだったのに。
「シッ……!」
ガンマがヴィクターの関節を狙った星の矢を撃ってきた。
そう……正確に、である。
ヴィクターが剣を振るって矢をはじく。
だが気づけば自分の腕に、麻酔の矢が打ち込まれていた。
からん……と剣を落としてしまう。
「まさか……克服したのか! 魔蟲の力を……使いこなしたと!?」