168.意地
虫けら野郎からの指摘。
パワー向上による、精密性の低下。
くそが……!
虫の分際でえらそうに講釈垂れやがって!
「死……」
「それに、弓を引く速度も、遅い!」
ヴィクターのやつが一瞬で間合いに入ると、みぞおちに肘を入れてきた。
ガハッ……!
いっつぅうう……。
俺は思わず膝をついてしまう。
激しい吐き気が襲ってきて、俺はあらがえず吐いた。
「うぇえ!」
「ガンマ……貴様の体は、どうやら魔蟲族と同質のものらしい。その祖父からもらった弓を使えば使うほど、魔蟲の性質が強くなる」
「がは……げほ……!」
「魔蟲の細胞はニンゲンにとって猛毒だ。だが貴様は幼きころより虫を食ってきた。弱毒を少しずつ取り込むことで、魔蟲への耐性を獲得したのだ」
ヴィクターの言葉が少しずつ、耳に入ってきた。
だが……反論する元気がない。
「魔蟲細胞の活性化による、筋肉の増強。パワーは上がったが精密性と、そしてしなやかさが失われた。弓を引く速度が明らかに遅い」
……確かに、俺は目にもとまらない速射が武器の一つだった。
だがどうだ、こんな図体のでかいやつに、間合いに入ってくることを許してしまっている。
……こいつの言うとおりだ。
「……俺の、負けだ」
ヴィクターの一撃がいいところにはいって、俺は立ち上がれない。
それに、さっきまで俺を包んでいた万能感が薄れている。
血を流したことで、体内の魔蟲細胞が少し流出し、元のニンゲンの細胞へと戻ってきてるのだろう。
だが、冷静になるのが遅すぎた。
「……殺せ」
俺はもう敗北を認めていた。
狩りに失敗したのだ。
ケモノを殺すってことは、殺される覚悟があってやってる。
俺は……死への覚悟が……。
……そのとき、脳裏にメイベルの姿がよぎった。
赤毛に快活な性格。
元気いっぱいで、かわいい……あの子に。
また……俺は……
ぐぐ……と俺は立ち上がる。
「なんと……貴様……まだ立つのか?」
「……ったり、まえだ。俺は、帰るんだ」
弓を、構える。
まだ、負けてない。まだ戦う意思は折れてない。
戦って勝って、そして帰る。
「メイベルと……ともに……愛する……あの子とともに!」