153.肉弾のフンコロ
《フェリサSide》
帝都に魔蟲族が襲撃してきた。
胡桃隊のメンツは手分けして、敵の対処に当たってる状況。
フェリサの前に現れたのは、新手の魔蟲族。
「ふぇふぇふぇ……わしは魔蟲族、女王の直属護衛軍、肉弾のフンコロ!」
フンコロと名乗った魔蟲族、そのビジュアルは……。
『でっかいゴキブリや!』
妖精のリコリスが、フンコロを指さしていう。
フェリサは、たしかにとうなずいた。
魔蟲族はどこか、人間のフォルムに近いものを持っている。
しかもフンコロは違う。
二足歩行する、巨大な虫の形をしてる。
黒い外殻をもち、触覚もある。
その姿は確かにゴキブリに見える……が。
「ちがぁあう! わしの原型はスカラベ!! ゴキブリなどという、下等な虫と見間違うでない、失礼だろうが!」
だんだん! とフンコロが地団駄をふむ。
スカラベ……?
『フンコロガシのことやで、姐さん』
ああ、見たまんまなんだ……とフェリサは思った。
たしかフンコロガシは故郷の人外魔境にもいた。
ゴキブリみたいなみためで、糞を転がしてる、あの虫だ。
『もうフンコロガシでええやん』
「スカラベだ! くそ! 失礼なやつらめ……!」
『んで、フンコロガシ。わいらになんのようや? 見ての通り、こっちは救助活動で忙しいんや』
「我らの計画を邪魔する、下等な猿を、間引くためにきたにきまっておるだろう」
フンコロからは、確かに強者の音が聞こえた。
フェリサは異常発達した聴覚を持つ。 それゆえに、通常では聞こえない音を耳で拾える。
たとえば、敵がどれくらいの強さを持つかどうかを……。
フェリサは、手斧を構える。
その手にはじんわりと汗がにじんでいた。
『! あのウンコロ野郎……つよいのか?』
「ぶふぅ!」
フェリサは思わず吹き出してしまった。
「誰がウンコロだぁあ! 貴様ぁ……! ぶちころがしてやるぞぉお!」
先ほどよりも、フンコロは強い気を放ってくる。
だが、気分はさっきよりも軽い。
おそらく、リコリスはフェリサの緊張をほぐそうとしてくれたのだろう。
ありがとう、と心のなかで感謝する。
フェリサは構える。
単独での、魔蟲族の戦闘。
兄のように強くない自分が、果たして勝てるかは、不明だ。
だが……やる。
自分はもう、荒野を走るだけの狩人ではなくなった。
今は人を守る……軍人なのだ。
偉大なる兄ガンマのように、自分もまた、敵を排除し、人々の平和を守らねば。
「いくぞ小娘! 死ぬ準備はできたかあ!」
「…………!」
だんっ! とフェリサは地面を蹴り、フンコロめがけて、突っ込むのだった。