150.見えない猫
ガンマの所属する部隊、胡桃隊の副隊長、シャーロットは敵国の聖女、シャンテと戦っている。
彼女は炎の力を解放した。
『おらぁあ!』
気合いとともにシャンテが消える。
次の瞬間、シャーロットの右の頬に鋭い痛みが走った。
つつう……と血が垂れる。
「…………」
普段感情をあまり表に出さないシャーロットだが、さすがに今のは驚きを禁じえなかった。
完全に敵の動きが見えなかったのである。
『はっはー! どうやらあたいの動きが目で追えないようだなぁ!』
炎の猫となったシャンテが再び消える。
今度は左腕に痛みが走る。
ぼっ、ぼっ、という不思議な音とともにシャンテが消えるのだ。
「ふう……」
敵の攻撃がわからない。
未知のこうげきをまえに、しかしシャーロットは冷静さを崩さない。
「フッ……」
手に持っている氷の剣を横に振る。
『当たるかよそんなとろい攻撃ぃ!』
ぱきん! と氷の剣が砕けちる。
またしてもシャンテの謎の攻撃だ。
攻撃に耐えきれなかったのだろう。
『ほらほらどうだ! あたいの攻撃、なにされてるのかわからないだろぉ!?』
シャーロットは敵の攻撃を前になすすべがない。
どんどんと傷が増えていく。
やがて右腕が切断されて、肘から下が宙を舞う。
「…………」
部位を欠損したというのに、シャーロットはみじんも動揺を見せない。
傷口を凍らせ、さらに、地面に落ちた右手を冷凍保存する。
『きしょくわるい女……! 痛いなら泣き叫べばいいものを!』
「……今は任務中ですから」
ちゃき、と左手でシャーロットは自分の眼鏡を押し上げる。
その瞳からは恐怖を感じられない。
痛がってるようにも思えない。
ただ冷静に、敵を分析する。そして……。
「ネタは割れました」
と言ってのけるのだった。