139.再戦
帝都が突如として結界に覆われた。
さらにメイベルが連れ去られる事態になる。
……焦る俺の前に現れたのは、魔蟲族の剛剣のヴィクターであった。
カブトムシのごとく硬い鎧にみをつつんだ、化け物である。
以前、故郷の人外魔境で戦ったことがある。
あのときは、危うく負けるところだった……。が。
「……どけ」
俺は新しい錬金武装を取り出す。
弓を展開し、光より早く矢を放つ。
ヴィクターの脳天を狙った一撃。
しかし……。
ぎぃん! という鈍い音とともに、魔法矢が弾き飛ばされた。
「……以前より強く、速くなっているな」
どういうことだ。
闘気を込めた矢を放った。
しかも急所を狙った。
対応できない早さでの一撃であった……はず。
だというのに、なぜやつは……?
「惜しいな……ガンマ……」
ヴィクターのやつは、なんだか悔しそうに歯がみしていた。
なんだ、それは。
化け物のくせに、人間らしい感情を見せるんじゃねえ。
だがはじかれた魔法矢は空中で鳳へと変化し、襲いかかる。
【鳳の矢】。
自動追尾矢だ。
しかし、これもヴィクターが剣でたたき切る。
「万全のおまえと戦いたかったぞ……ガンマ」
ヴィクターが消える。
だが俺の目には、やつの動きがはっきりと見て取れた。
間合いまで踏み込んできて、一撃を放ってくる。
「竜の……」
いや、待て。
ここで竜の矢なんて放ったら……味方にも……。
「遅い」
ヴィクターの剣が俺の腹部に激突する。
「がっ!」
俺はすさまじい勢いで吹き飛ばされて、帝城の城壁に体をしたたかにぶつける。
「ぐぅ……」
早さは、たいしたことない。
この目で追える程度だ。
なのに、なぜだ。
なぜやつの攻撃を、避けられなかった。どうして……。
「迷いが見えるぞ、ガンマ。そんなに気になるものがあるのか? この戦いよりも」
「!」
そうだ……俺は、帝都の人たちを……。
そして……メイベルを……。
今すぐにでも守らなきゃいけない。
「弱くなったな、ガンマ。……実に、実に、残念だ」
弱くなっただと……?
そんな馬鹿な。
新しい武器を手に、そして闘気まで身につけた。
以前よりも強くなっている……はずだ。
だというのに……。
俺は、ヴィクターに後れを取っている。
「いや、失言だった。すまなかった、ガンマ」
「んだよ……突然」
俺は星の矢を放つ。
無数に分裂する、小さな矢が、まるで機関銃のように放たれる。
ヴィクターはその場から動かず、また、剣すら振るわない。
これは陽動だ。
俺は案山子の矢で分身を作り、ヴィクターを夾撃する。
だがやつは剣を使って、本物の矢をたたき落とし、俺のもとへ接近。
「ぬぅん!」
「がっ!」
またも、やつの攻撃を受ける。
ばかな……一度ならず、二度も敵の接近を許すなんて!
目は、目は追えてるんだ。
獲物の早さを捕らえることができている。
……やっぱり、別の要因が戦いの邪魔をしてるんだ。
……メイベル。
「……すまない、ガンマ。これは、戦争なのだ」
痛みで動けない俺に、ヴィクターが剣を振りかざし、そして……。
がきぃん!
「しっかりしろ! ガンマ……!!!」
「あなたは……」
そこにいたのは、メイベル・アッカーマンに、とてもにた……女性だ。
長い髪に、黒い鎧……。
「アイリス隊長……」
メイベルの姉、アイリス・アッカーマンが、ヴィクターの攻撃を受けていたのだ。
 




