137.武を極めし男
ガンマの同僚、メイベルは、神聖皇国の聖騎リューウェンと対峙している。
彼が仲間の聖騎士とともに何かをこそこそとしていた。
調べようとしたところ、彼が邪魔してきたのだ。
「メイベル、タイマンでやろうとするな!」
魔法使いメイベルの肩には、隊長であるリスのマリクが乗っている。
彼は珍しく焦っていた。
「わかってるな? あいつはガンマとサシでやって互角だった」
「わかってるから……! 行け!」
強化したゴーレムが一斉にリューウェンに襲いかかる。
銃を使った連射。
しかしリューウェンはそのことごとくを……。
「ぬん!」
高速の打撃によって、打ち落としたのだ。
「うそでしょ……」
魔蟲用に作られた特製の銃だ。
貫通力、そして何よりスピードは、通常の兵器を遥か凌駕している。
それを素手で、まるでハエでも叩くかのように打ち落として見せたのだ。
メイベルは急いで逃げる。
勝てるわけがない。
彼女のすごいところは、ゴーレムの位置を視認せずとも、把握できるところだ。
火力で押し切れないとわかったあとは、剣による白兵戦に切り替える。
人間では考えられない稼働で襲いかかるゴーレムたち。
だがそのゴーレムの攻撃を、流麗な所作で裁いていく。
そして顔面を拳でぶち抜く。
「なんだありゃ! バケもんじゃねえか!」
マリクは驚愕するほかならなかった。
あんなのにメイベルが太刀打ちできるわけがない。
彼の部隊でも、互角に戦えるのはガンマくらいだろう。
「ガンマ! 見えてるだろ! ガンマ!」
しかしガンマとの通信がつかない。
しかも鷹の目を使えるガンマが、援護射撃をしてこない。
「くそ! ほかにもいやがるのか、敵が……!」
となると相手は組織だと考えるのが妥当だろう。
すなわち、皇国が裏切ったのだ。
メイベルは必死になって逃げる。
だが……立ち止まった。
「メイベルどうした!?」
「…………」
メイベルの目の前には、ほかの聖騎士たちがいた。
いや……違う。
聖騎士の目はうつろだった。
口を大きく開けると、そのなかには蟲の口がのぞく。
「!? 魔蟲族!? 人間に化けてやがっただと!?」
メイベルは、悟る。
これは詰んだと。
そこからの判断は速かった。
「【風流】!」
彼女が風の魔法をつかい、通せんぼする聖騎士に攻撃する……。
ふりをして、マリクを逃がしたのだ。
「……!」
風に飛ばされながら、声を上げそうになる。
だがマリクは口を噤む。
メイベルの覚悟の決まった目を見た。
彼女は自分を犠牲にして、マリクを逃がしたのだ。
仲間を、救援を呼んでくるって信じて。
(メイベル! くそ……! すまねえ……!)




