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13.王国から戻ってきて欲しいと懇願



 パーティでの襲撃事件から、一夜明けた。


 俺と隊長、そして皇女アルテミスは、ゲータ・ニィガ王国の国王たちに呼び出されていた。


 ここは来賓室。


 正面にはゲータ・ニィガ王と、そして第一王女ヘスティア様がいた。


 国王がまず口火を切ってくる。


「アルテミス殿、このたびは貴国に多大なるご迷惑をおかけした。深く……お詫び申すと同時に、最大の感謝を」


「かまいません。我々はただ、降りかかる火の粉を払っただけに過ぎません。それに感謝は私や帝国にではなく、どうか、奮闘してくださった胡桃くるみ隊の皆さんに」


 アルテミス、というか帝国は徹底した実力主義なところがある。


 何か問題があってそれを解決したならば、対処した本人に賛辞が贈られて然るべき。そういう考え方なのだそうだ。


胡桃くるみ隊の……ええと、貴殿が隊長であられるか?」


「ああ。マリク・ウォールナットてぇいいます。以後よろしくをば」


「! ウォールナット……本当に貴殿は、ウォールナットという姓なのか? いや……でも……まさか……」


 王様がぶつぶつと何かをつぶやいている。


 隊長のことを知ってるんだろうか。


「ま、過去は詮索しないでくださいや。とりあえず状況の説明といきやしょう。ガンマ、おまえが見たことを、王国側にもわかりやすく、ご説明しろ」


「了解です隊長」


 一連の襲撃事件の流れを、俺は王国側に伝える。


 会場にいた人たちは、王国側も含めて、何が起きたのか理解していないだろう。


 最も事情を知っているのは、対処に当たった胡桃くるみ隊。とりわけ、全体を見ていた俺になる。だから、俺が説明するように。


 と、隊長から言われていたのだ。


「まず襲撃犯ですが……人間じゃありませんでした。魔蟲まちゅう族を名乗る、魔族の進化形、と自分たちを称してました」


「魔族の進化形……そんな……勇者さまが魔王も魔族も滅ぼしたはずなのに……」


 ヘスティア王女は驚き、衝撃を受けているようだった。


 そういえば、かつて存在した化け物級に強いという勇者は、王国出身の若者だったらしいな。


 自国の勇者がぽかやったとは、思えない、いや、思いたくないのだろう。


「会場内に来た敵はリーダーの魔蟲族のほかに10名。やつを含めて全員が死にました」


「なに? 死んだ? どういうことじゃ?」


「陛下。言葉通りの意味です。リーダーの魔蟲族は、俺が殺しました。尋問のため生かそうとしましたが、相手は未知の敵だったため、手加減できませんでした」


 そのほか、魔蟲族が連れてきた部下らしき者どもは、全員人間だった。


 どこぞの野盗が、操られているようだった。


 つまり魔蟲族は一人だけで、あとはやつに操られた人形だったわけだ。


「魔蟲族については結局わからずじまいか……何者なのじゃ、奴らは」


「それについてですが、思い当たる節はひとつ、ありやすぜ」


「なにっ? 本当か、ウォールナット殿!」


「ああ……だが、教えるわけにはいかねえですわ」


「なんじゃと!? どういうことじゃ!」


 隊長、そしてアルテミスもまた、甚く真剣な表情をしていた。


 茶化してる訳じゃない。


「悪いが、そいつは帝国の持つ【トップシークレット】の情報だ。おいそれと王国に手渡せねえですわ。あんたらとおれらは、別の国。今は一時休戦中ですが、かつてはバチバチ戦争やっていた間柄。教える訳にゃあ、いかないな」


 確かに情報は武器だ。

 アルテミスも言いたくないということは、本当にすごい秘密なのだろう。


 相手国に、教えたくないという気持ちは理解できる。


 けど……。


「なんだガンマ。納得いってない、って顔だな」


「ええ、まあ……そんなイジワルしなくてもいいじゃないですか」


「まあそうだな。ガンマ、おまえまだ帝国に来て間もなかったろう? 教えてやるよ、【魔蟲まちゅう】について」


「まちゅう……?」


 はっ、と国王も王女も、何かに気づいたような表情になる。


 俺も、わかった。


「これはガンマ、おまえに向かって説明するんだぜ? 帝国のトップシークレット、帝国軍所属となったおまえだから言うんだ。まあ、もっとも、近くで聞いてるやつがいるなら、しゃーねーがな」


「隊長……」


 アルテミスは、疲れたようにため息をついていた。だが何も言わなかった。


 多分、見過ごすということだろう。


「前に説明したな。おれら胡桃くるみ隊には、3つの仕事があると」


「はい。皇女からの依頼、国民からの依頼。あと……害虫駆除だと」


「ああ、そうだ。その害虫ってのが問題だ。おれたち帝国の近くに、【妖精郷アルフヘイム】って森がある」


「あるふ、へいむ……」


 聞いたことのない名前だ。


「詳細は省くが、そこは帝国の領地内にある、特別な大森林だ。で、そこの空気を吸って育った、【巨大蟲】。それが魔蟲っていう」


「帝国内に、そんな場所と、化け物が……」


「ああ。やつらは特別な翅を持つ。そして、鋼鉄の外皮を持ってる。通常の装備じゃあ全く刃が立たない。銃の開発は、空を飛ぶやつら化け物を倒すためだったといえるな」


 空の敵と戦うのなら、銃は有用だ。

 隊員のオスカーも言っていたが、ある程度練習すれば、簡単に、離れた敵を倒せる。

 

 魔蟲をやっつけるための武器、それが……銃だったわけか。


「けれど銃だけじゃ魔蟲は対処できない。そこでおれら胡桃くるみ隊の出番だ」


「なるほど……じゃあ、俺らの真の任務は、その魔蟲の討伐なんですね」


「そうだ。魔蟲の駆除。その掃討。それが胡桃くるみ隊の目的だ」


 魔蟲と、魔蟲族。そして……最後に言っていた、魔蟲王。


「おそらくは、魔蟲どもの上位種だろう。魔蟲王……魔蟲族の王、だろうな」


「そんなやつらが……」


 魔蟲族は、かなりやばい相手だった。

 手を抜いたら狩られる、という緊迫感がひしひしと伝わってきた。

 

 そんな危険な任務を、胡桃くるみ隊のみんなは、任されてたのか……


「ガンマ。選んでいいぜ」

「え? 選ぶ……? なにを、ですか?」


 マリク隊長は、真剣な表情で俺に言う。


「ここに残っても、いいんだぜ」

「! ぜひ! 我々王国は、あなたを歓迎いたしますわ!」


「姫さんがそう言ってるんだ。ガンマ、おまえは残っていい。おまえは魔蟲について知らずに、胡桃くるみ隊に入った。危険な仕事だ。命を落とすかもしれない。ここなら……今回の功績で、おまえはある程度の地位を得られるだろう」


「もちろんですわ! あなた様は英雄です! 望まれるのでしたら、貴族の地位もご用意いたします!」


 王様そっちのけで、ヘスティア王女がぐいぐい来る。


「わたくしたちはガンマ・スナイプ様、王都を二度もお救いになられた、真の英雄様を、迎え入れたく存じます! どうか、王国に……戻ってきてくださりませんかっ! お願いします、どうか……! 望むのなら……わたくしの身も心も捧げますゆえ!」


 あ、圧がすごい……。

 そこまでして、俺がほしいってことか。

 はは……なんか、おかしな話だ。


 元いたパーティを抜けた途端、いい話が次から次へとやってくる。


 さて……。


 俺は、これからどうしよう。


「…………」


 マリク隊長を見た。彼は腕を組んで黙っている。


 俺に、判断を委ねる。そう、彼は無言で語っているようだった。


 パーティを追われてからの日々。

 それを振り返ってみたら……自然と、結論が出た。


「ヘスティア様。申し出は、大変ありがたいです」


「なら……!」


「ですが……ごめんなさい。王国には、戻りません」


「そんな……! どうして!? 何が気に食わないのですの! あなた様が望むのでしたら、【あいつら】は……」


「いや、何が気に食わないとか、そういう話じゃ、ないんです」


 俺は、思っていることを口にする。


「俺……胡桃くるみ隊のみんなが、好きなんです」


「…………」


「短い時間でしたけど、俺はみんなと過ごして……楽しいって、思ったんです。この人たちと仕事したい、この人たちのために……力を使いたい。そう思ったんです」


「…………」


「だから、すみません。王国には戻りません。俺は帝国軍人としての、責務を全うしたいです。仲間とともに、誰が敵として、俺の道を阻もうとも。俺の目と腕、血と肉と、そして何より心臓は……帝国の……ううん、隊のみんなに捧げるつもりです」


 黙って聞いていたマリク隊長が、ふっ……と笑った。


 すちゃ、とサングラスを指でおしあげて、俺を見上げる。


「馬鹿野郎。せっかく貴族になるチャンスをふいにしてまで、危険な仕事につくたぁ……。変わりもんだな、おめぇよぉ」


「ええ。だって……胡桃くるみ隊の連中は、変わった奴らばっかり、なんでしょ?」


「へっ! だとよ、おめえら」


 隊長が背後を見やる。俺も、気づいていた。


 扉を開けると、どどっ……! と胡桃くるみ隊のみんなが入ってくる。


「メイベル……それにおまえら……盗み聞きすんなよ」

「ば、ばれてたんだね、あはは、さすが狩人のガンマ。耳もいいんだね」


 俺はメイベルに手を差し伸べる。

 彼女は手を握って、立ち上がる。


 メイベルやオスカーならわかるけど、リフィル先生や、それにシャーロット副隊長までも、外で聞いていたなんて。


「ま、それだけおめえ、みんなから好かれてるってことよ」


 肩に乗っているマリク隊長が、にっと笑う。


 俺もまた……笑っていた。


 そだ。俺は……この人たちと、戦う。戦いたいんだ。これは、俺の意思だ。


「すみません、ヘスティア様。これで失礼します」


「まっ、待ってくださいまし……! ガンマ様……! 待って……! 待ってぇ……!」


 俺は、悪いと思いながら、きびすを返してみんなと出て行く。


 最後にアルテミス様が、ヘスティア様に何かを言っていた。


 彼女が目をむいて、がくり……とうなずき、父である国王からなぐさめられていた。


 俺はもう迷わない。

 仲間とともに前に進んでいく。


    ★


「……ガンマ様を、手放す羽目になるなんて。……許せない、あの……黄昏の竜どものせいだ。あいつらが、ガンマ様の価値を理解せず、追い出したのがいけないんだ。……覚えてなさい、黄昏の竜。絶対に許さない。絶対よ。……ガンマ様を苦しめたあいつらを苦しめたら、きっと戻ってきてくださりますよねそうに決まってますわよねうふふ、うふふふふふ♡ 待っててくださいねガンマ様……♡ ……愚者には罰を。英雄には、光を。わたくし……絶対にあなた様を諦めませんから。絶対に、絶対、絶対に」


 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] おや〜? 「化(け)物」級に強い「勇者」だって?「王国」の? そういえば主人公の出身地って「人外魔境[スタンピード]」って言ってたな?
[一言] 王国・・・大丈夫だろうか( ̄▽ ̄;) 立派な腐女王姫が 斜めへ上へとスクスク 健やかに育ってるんですけど・・・・
[一言] ヤンデレなヘスティア王女様万歳! こりゃ完全に見も心も捧げます!というより捧げたいの間違いだな(笑)
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