129.備え
俺は軍服に着替え、妹のフェリサとともに、胡桃隊の詰め所へと向かう。
生誕祭だからか、街にはかなり人がいた。
「おおいな」
「…………」ねー。
「うるさくないか?」
「…………」ふふん。
フェリサは耳に、筒みたいな物をくっつけている。
「なにこれ?」
「それはですねぇ」
「うぉお! リヒター隊長!」
目の下にクマを作った、怪しげな白衣の女が現れる。
手には雲のようなものが握られていた。
「なんですそれ?」
「これは綿飴っていう、最近発売されたおいしいおいしい綿菓子ですよ。食べます、フェリサ君?」
フェリサが目をキラキラさせていたので、リヒター隊長は苦笑すると、妹に譲ってくれた。
「ありがとうございます」
「いえいえ。で、フェリサ君のこの耳のこれは、ヘッドホン。外部の音を意図的に小さくすることができる魔道具です」
「ヘッドホン……」
耳を覆う筒が二つ、そして、それらをつなぐブリッジという形だ。
なるほど、この人混みでもフェリサが倒れないのは、このヘッドホンってやつが音量を調節してくれるからなのか。
「通信用の魔道具も組み込まれてますよぉ。はいガンマ君、最新式の通信魔道具」
隊長が俺にイヤリングを放ってよこす。警備任務の時によく使うものの、最新版ってことか。
「マップを表示できるようになってます。お互いの位置もある程度わかるかと」
「マップ……」
俺はイヤリングをつける。
念じると、目の前に半透明のマップが出現した。
すごい技術だ……。
「これ作ってて寝不足なんですか?」
「ええ……ふぁあ……何があるかわかりませんからね。備えておかないと」
……備え、か。確かに必要だよな。




