127.虫籠作戦
ガンマたちが生誕祭当日を迎えてる、一方その頃。
帝国からほど近い場所……巨大樹の森がある。
妖精郷。
豊富な資源と、そして魔蟲たちの住処の森だ。
その森の入り口に、白衣の男が立っている。
ジョージ・ジョカリ。
蜜柑隊の隊長、リヒターの実の兄だ。
「さて……と。とうとう当日を迎えたね……ヴィクター」
前を向いてるというのに、背後にいる魔蟲族の気配を捉えていた。
剛剣のヴィクター。
カブトムシの魔蟲族。武人のように筋骨隆々で、黒い鋼の鎧に身を包んでいる。
「武芸をたしなんでない貴様が、気配を読むとは。いよいよ持って人間を捨てたのだな」
「当然じゃないか。私は別に人間であることにさほど興味は無い。私の興味関心はただ一つ、最強種をこの手で生み出すことだよ」
世界最強の生物を作る。それが、ジョージの大目的だ。
そのためには、己の肉体を改造することすらいとわない。
「ほんとにやるのだな。この、【虫籠作戦】を」
ジョージの隣には、巨大な卵が置いてある。
鉱物のようにキラキラと光っている。
その表面に触れながら、ジョージが説明する。
「妖精郷のここを起点として、中央に帝都を置き、四方を結界で囲んででれなくする。あとは内部から虫たちに人間を食わせる……それが作戦の全容だが、忘れてしまったのかい?」
「……別に忘れたわけではない。こんな、卑怯な作戦が気に食わないだけだ」
「卑怯? はは、蟲の分際で、まるで人間のようなことをいうじゃあないか。誰かに感化でもされたのかい?」
脳裏に、あの規格外の狩人の姿が映る。
やつとの一騎打ちは実に心躍るものだった。
……この虫籠のなかには、あの狩人もいるだろう。
だが作戦当日は、前回のように、一対一で戦う機会には恵まれない可能性の方が高い。
いかに狩人がすごかろうと、中にいる大勢の弱者たちを守りながら、魔蟲族と戦うことはできないはず……。
「…………」
わかっている。ヴィクターにとって最優先は、王と、その腹に宿りし新しい命。
人間は、餌だ。わかってる。でも……。
「さ、そろそろ時間だ。はじめようじゃあないか。虫籠作戦を」
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