12.魔なる一族との戦い
パーティ会場にて、俺たち胡桃隊は、襲撃者を全員捕らえた。
矢による狙撃によって、影人形を操っていた敵を倒した。
俺は城の外にいた、メイベルと、そしてシャーロット副隊長のもとへ駆けつける。
「無事か、二人とも?」
「うん、だいじょーぶ! ガンマが来てくれたおかげだよ! ありがとー!」
メイベル。俺の旧友にして、この胡桃隊に誘ってくれた恩人。
そう、恩人だ。俺は彼女に返しきれないほどの恩を感じてる。いつか、この子に返せるといいな。
シャーロット副隊長は、人形を操っていた襲撃者の手足を氷で捕縛していた。
「……何者なのでしょうか、こいつ」
「城の中の襲撃者の仲間ってのはわかりますが、目的が不明瞭ですよね」
「……拷問して吐かせますかね」
と、そのときだった。
【く、くく……くかか! くかかかか!】
気を失っていた襲撃者が、突如として笑い出したのだ。
【たかが人間ごときが、この【魔蟲族】に対して、随分と上からものを言うじゃないか!】
「まちゅうぞく……だと?」
聞いたことのない単語だ。
メイベル、シャーロット副隊長も困惑している。
「おまえ……人間じゃないのか」
【ご明察。我らは進化した人類! その名も……魔蟲族!】
「魔族……とは違うのか?」
魔族。かつて、魔王と呼ばれる恐ろしい存在がこの世にはいた。
高い魔法の力を持つ、恐ろしい一族。だが魔王とその配下の魔族は、怪物と呼ばれる勇者が倒した……と聞いている。
【我ら魔蟲族は、魔族から分岐して進化した……魔族を超越する一族のことよ!】
「そんな……魔族を超える一族だなんて……」
【ふはは! おののけ人間!】
メイベルがおびえてる。俺はその肩を叩き、安心させる。
「見下してる人間に捕まってる程度のやつが、イキったところで怖くないよ」
【ぐっ……! 黙れ人間! この我は、本気ではなかったのだ!】
すると……。
しゅうう……と襲撃者の体から湯気が立つ。
襲撃者の体がドロドロと溶けていき……。
その下から、黒い外殻を持った、巨大な【虫】が出現した。
二足歩行する、人間サイズの虫、といったところか。
「人間に擬態でもしてたのか」
【その通り。我ら魔蟲族は、人間を食らい、その皮をかぶって人間社会に潜伏してるのよ!】
「随分とおしゃべりじゃないか。そんな秘密をべらべらしゃべっていいのか?」
【ああ、問題ない。貴様らを殺し、その皮をいただくからなぁ!】
ばきんっ! とシャーロット副隊長の拘束を解く。
すぐさま副隊長が氷の剣を手にとって、魔蟲族に斬りかかろうとする。
俺は見た。敵の体が少し、膨張するのを。その動きから、次のモーションを予測。
「副隊長! 危ない!」
俺はシャーロット副隊長を突き飛ばし、そのまま倒れる。
びゅっ……!
魔蟲族の口から黄色い液体が射出される。
それはそばにいたメイベルの魔導人形に付着すると……。
じゅお……! と一瞬で蒸発したのだ。
「! あたしの、固い魔導人形が一瞬で溶解した!?」
【ちっ……! 勘のいいガキだな。そこの弓使いは】
俺は狩人。職業上、獲物の次の動きを予測する癖がついてる。
また様々な獣を狩ってきた俺は、その獣が、どういう攻撃をしてくるかも、ある程度経験から知っている。
虫というフォルム。そして、体から吐き出そうとしたモーション。そこから、毒を吐くのだと予測したのだ。
「……危ないところでした。感謝します、ガンマさん」
「いや、こちらこそ……押し倒してすみません」
倒れ伏す副隊長に、上から覆い被さるような態勢になっている。
ちょっとエロい格好だが、今は緊急時。俺は敵を間断なくみつめながら、立ち上がって、妖精弓エルブンボウを構える。
「おまえが人間を襲って、人間の皮を食らい、社会に潜伏しようとしてるのはわかった。つまり、敵だ。敵は排除させてもらうぞ」
こっちは三人。
相手は一人だ。協力すれば勝てる。
【翅を持たぬ原始人が。我ら進化した魔蟲族に、かなう訳がないだろうが!】
ぶぶっ、とやつの背中から翼……否、翅が広がる。
やつは一瞬で……俺たちの前から消えた。
「ガンマ! 敵が消えたよ!」
「違う、上空に飛んだだけだ」
「そう、なんだ。速すぎて、目で追えなかったよ……」
それはシャーロット副隊長も同じらしい。
二人にあいつの相手は……難しいだろう。
今、対処できるのは俺だけだ。やつの動きは、狩人の目にはっきりと映っている。
あの早さに加えて、空を飛ぶやっかいな敵に、対抗できるのは、俺だけ。
「メイベル、魔導人形でシャーロット副隊長と自分を守れ。副隊長は、援護をお願いします」
「ガンマ!? どうするの!?」
「俺があの虫を……駆除する」
俺には、今まで大切なものが家族しかいなかった。
でも、そんな視野の狭い俺に、仲間という大切な存在を教えてくれた。
メイベル。副隊長。そして……胡桃隊のみんな。
「俺は、大事な仲間を守る。仲間の命を脅かそうとするやつは……俺が、狩る!」
【大口を叩くな! しょせんは、翅を持たぬ下等生物だろうが!】
やつが高速でこちらに向かってくる。
かなり早い。だが……。
バシュッ……!
【ぐぁああああああああああ!】
魔法矢を顔面に受けた魔蟲族が、そのままの勢いで地面を転がる。
倒れ伏す魔蟲族の姿に、メイベルと、そしてシャーロット副隊長が驚いている。
「……気づいたら、魔蟲族が地面を転がってました」
「す、すごい……ガンマ、あんな速さの敵に、正確に攻撃を当てるなんて! すごいよ!」
ぐぐ……と魔蟲族が立ち上がる。
【あ、あ、ありえん! 魔蟲族は特別な【翅】を持つ! この翅は光の速さで動くことのできる、優れもの! だのに! なぜ貴様は、光の速度で飛ぶ我に攻撃を、しかも矢を当てることができたのだ!】
「簡単な理屈だ。俺が矢を撃つ速度は、光と同じだから」
【そんな馬鹿なことがあるかぁああああああああああ!】
また一瞬で魔蟲族が上空へと飛ぶ。
今度は真正面からの攻撃を避けるようだ。
高い場所から、地上へ向けて、溶解毒を吐き出す。
俺は魔法矢を構えて放つ。
「【星の矢】!」
無数に分裂した光の矢が、毒の雨を打ち落とす。
【馬鹿なぁ! 酸の雨を! 矢で打ち落とすことなど不可能だ!】
「そりゃ、人間なめすぎだ」
【なっ!? いつの間に背後に!?】
魔蟲族は、気づいていない。
やつが上空へ逃げたとき、俺はシャーロット副隊長に指示を出していた。
氷の足場を作ってくれと。
星の矢による目くらましで、やつの気を引き、その間に副隊長の作った足場から、背後に回ったのだ。
【ふ、ふん! 無駄だぁ! いいか我ら魔蟲族の外皮は、鋼鉄! その硬度は神威鉄級だ! たかが矢ごときに貫けるものじゃあない!】
「ああ、そうかい。【鋼の矢】!」
鈍色の魔法矢を、俺は魔蟲族の脳天めがけて放つ。
まるで鋼のような、鈍色の矢は……。
魔蟲族の固い殻をたやすく、貫通した。
【ば……かな……神威鉄級の……外皮を……軽々と……つらぬくだと……?】
俺の放った、鋼の矢は、貫通力に特化した魔法矢だ。
どんな固いものだろうと、まるでプディングのように貫いてみせる。
ひゅう~……と魔蟲族が落ちていく。
俺は副隊長の作った足場の上に着地。
ぐしゃり、と魔蟲族が地面に落下する。
【あり……えん。ありえん……翅の速度においつき……外皮をたやすく貫く……など……。貴様……何者だ?】
「ただの、狩人だよ」
【貴様のような、狩人が……人間界にいるとは……魔蟲王様に、報告せねば……我らの天敵が……いると……】