11.チーム一丸となって戦う
王都のパーティ会場にて、何者かによる襲撃を受けた。
この国の王女であるヘスティア王女を連れ去ろうとした男は、俺が皿を投げて鎮圧した。
襲撃犯はこいつ一人じゃないだろう。
「まずは状況把握だ」
俺は狩人のスキル暗視、そして鷹の目を発動させる。
パーティ会場内は、未だ停電中。
襲撃犯らしき黒ずくめは、会場内に10名。
アルテミス、そしてヘスティア王女を狙ったところから、他国の要人を狙った誘拐が目的だろう。
敵は10人。
普段の俺なら問題なく一人で対処できた。だが……今はまずい。
手元に弓がない状態だ。
これでは魔法矢が使えない。一人で10人を相手にするのは、骨が折れる……その間に誘拐されたら困るし……。
「ガンマ。気負うな。おれらを頼れ!」
「マリク隊長……」
いつの間にかマリク隊長が、俺の肩の上に乗っている。
「ガンマ、おまえが敵の位置を指示しろ。おれやオスカーを使え」
「でも……」
「ここは元いた場所じゃない。おれたちは部隊だ。全員で問題に対処する。それが、仲間ってもんだろ。違うか?」
……その通りだ。
俺はまた、同じ過ちを犯すところだった。
一人で仕事して、一人で背負い込んで、その結果俺は追放されたじゃないか。
……でも、今は違う。隊長の言うとおりだ。
ここでは俺のことをわかってくれる人たちがいる。俺と力を合わせてくれる仲間がいる。
もう、俺は一人で勝手にやらない。
俺は……仲間を頼る。
「わかりました」
「よし。……聞いたかおまえら。暗視スキルを持つガンマが敵の位置を指示する。オスカー、リフィル。おまえらは会場内の制圧にかかれ。メイベル、シャーロット。敵は外にも仲間がいるはずだ。こっち片付けたらガンマを送る。それまで持ちこたえろ」
『『『了解……!』』』
そうだ、指示出しだって隊長が、なれてる人に任せればいいんだ。
俺は俺の、できる仕事をすればいい。
「ガンマ、わかってるな」
「はい。……オスカー、まずは前方2メートルのとこにいる。そいつをやれ」
オスカーが素早く指示通り動く。
彼も武器が手元にない。だが彼は非常に素早く動く、敵のみぞおちに一撃を入れる。
「リフィル先生。3時の方向から敵が来ます。遠慮なく鎮圧してください」
『りょーかい♡』
先生はそういえばどうやって戦うのだろう。
そう思ってると、彼女は近づいてきた敵に触れる。
くたぁ……と敵がその場に倒れた。
「リフィルは治癒術を応用した戦い方ができる。さっきのは麻酔に使う睡眠の魔法だな」
「なるほど……医術を戦いに転用してるんですね」
「そういうこった。ガンマ、指示に注力しろ。近づくやつらは、おれがやる」
隊長……というか俺に向かって2名、敵が近づいてくる。
マリク隊長に敵の位置を知らせる。
「てめえらにはどでかい花火ぶちこんでやるぜ!」
「隊長、それは……ボール……ですか?」
「ちげえよ、おらぁ! 食らえ、必殺【マリク玉】!」
しゅっ、と隊長が二つのボールを投げる。
それは敵の頭にぶつかると同時に、ぱぁん! と炸裂した。
小型の爆弾だったみたいだ。
これで4名倒れた。
その後も俺の指示で、部隊のメンバーは残り全員を鎮圧。
その頃になると明かりがともる……。
「なんだ?」「なにがあったんだ?」
ざわめく会場。そこに……アルテミスが声を張る。
「皆様落ち着いてください。どうやら敵がこの会場に忍び込んでいたようです」
アルテミスの言葉を聞いて、来客たちが戸惑いの表情を浮かべる。
俺たちは捕まえた襲撃犯を縄で捕縛し、アルテミスの元へともっていく。
「ご安心下さい。彼らは私の優秀な護衛たちが、見事に鎮圧いたしました」
「おお……!」「すごい……!」「さすがアルテミス様の私設部隊だ……!」
惜しみない賞賛を送られる俺たち。
なんだか……気恥ずかしい。
照れてるとオスカー、そしてリフィル先生が近づいてくる。
「ありがとう、兄弟!」
「おかげで助かったわぁ♡ ありがと、ガンマちゃん♡」
「君がいなかったら今頃、暗闇に対応できずやられてたところだったよ! 本当に感謝だ!」
何を言ってるだろう……。
感謝するのは、俺の方だ。
俺は……うれしかった。仲間がいるってことを、仲間と連携して戦うことの大切さを、教えてもらった。
と、そのときだ。
『隊長! 援軍をお願いします!』
「メイベルか、どうした?」
『謎のモンスターが会場に入ってこようとしてきてます! それも、大量に!』
通信魔道具から聞こえてきた、仲間の救難要請。
俺の体は、もう動いていた。
「ガンマ! いってこい! おまえの力がいる!」
「了解です! メイベル、すぐ行く!」
だっ……と俺は会場の外へと向かって走って行く。
まずは武器の回収だ。ああ、でも今武器はどこに……。
と思いながら入り口へいくと、
「ガンマ様……! これを!」
「ヘスティア王女!」
王女が俺に向かって、緑色の弓を投げてきた。
これは俺の相棒、妖精弓エルブンボウだ。
「必要かと思って!」
「ありがとうございます!」
俺は王女にお礼を言って、建物の外へ出る。
屋外に出た俺は、すぐさま【鷹の目】を発動。
外なら、この力の恩恵を100パーセント受けられる。
鷹の目を発動させると、俺は上空から地上を見下ろす、鳥の視点を得る。
王城の北側では、大量の黒い、人型のモンスターとメイベルたちが交戦中だった。
メイベルは大量の魔導人形を使って、黒い敵を殴りたおそうとする。
だが魔導人形が攻撃しても、すぐに立ち上がって、また襲いかかってくる。
『どうしようガンマ……相手は不死身なのかな……』
「いや、違う。そいつらは生き物じゃない」
『生き物じゃない!? どうしてわかるの?』
「体を見ればわかる。こいつら呼吸してない」
俺の目は狩人の目。見るだけで、得物のいろんなことがわかる。
筋肉の収縮、視線の向きから、敵の動きを予測する。それは狩人には必須のスキルだ。
その上で、俺がこの黒いやつらを見たところ、生き物じゃないことがわかったわけだ。
『……なるほど。おそらくは影分身スキルでしょう。影をつかって、人形を作るスキルです』
シャーロット副隊長が、俺の発言を元に、敵の正体について考察する。
彼女は両手に氷の剣をもって戦っていた。前に言ってた、氷剣とは、あれのことだろう。
『……影の人形を操っている、親玉がいるはずです。ガンマさん、そいつを狙撃してください』
『ガンマ! お願い!』
言われずとも、俺はわかっていた。
俺の仕事は、皇女の護衛。そして……仲間を守ること。
「了解だ」
俺はすぐさま敵を発見する。
わかる。影の人形のなかに混じってひとりだけ、呼吸をしてるやつがいる。
俺は魔法矢を放つ。遠距離からの狙撃。だが……。
バシュッ……!
『はずした!? ガンマ! 矢当たってないよ!』
「わかってる。それは……敵を動かすための矢だ」
バシュッ……! 二発目がピンポイントで、敵の後頭部を強打。
どさ……と倒れる。
『……なるほど。一発目は威嚇射撃。相手が驚いて、逃げるだろうことを予測し、そこに向かって二発目を放っていたと』
「はい。不意打ちはまぐれで避けられる可能性があります。わざと敵を誘導して、逃げ道を用意してあげた方が、動きが予測できやすく、正確に当てられるんです」
『……お見事でした。素晴らしい狙撃です。やはり、素晴らしい狙撃手です、ガンマさんは』
シャーロット副隊長からの、惜しみない賞賛に、俺は心が温かくなる。
『ありがとー! ガンマー! 影人形たちも消えたし! 任務完了だね!』
「ああ。チームの勝利ってやつだな」
『うん! うん! そうだね! でもチームにはちゃんと、ガンマも入ってるからね! ガンマがいなかったらやられてたから、だからガンマのおかげだよ!』
「ああ……ありがとう」