106.無手VS弓使い
俺はリューウェンとの手合わせをしている。
至近距離で放った矢を、聖騎士のリューウェンは素手で払った。
「全力、ではござらんな?」
「もちろん。本気でやったら殺しちゃうだろ」
俺が使っているのは、訓練用の弓と矢だ。
錬金武装は使用禁止されている。あれは対人ではなく、魔蟲殲滅用だからな。
「あんたも本気じゃないだろ」
「無論。本気でやると、おぬしを殺してしまうからな」
向こうもかなりの使い手だ。これはもう少しギアを、あげていかないと勝てないな。
「こないでござるか。それでは、こちらから!」
一瞬で距離を詰めるリューウェン。スムーズな足運びだ。
みぞおちを狙った貫手を放ってくる。正確で、鋭い一撃だ。相手を壊すという意思がひしひしと伝わってくる。
だが俺はそんな攻撃を、見切る。俺の目は魔蟲族の目と同じらしい。
常人離れした動体視力を持つ俺にとっては、どんな攻撃もスローに見える。
放ってきたリューウェンの一撃を、バク宙することで交わす。
「なんと!」
すかっ、と相手の攻撃が空を切る。
俺はそのあいた隙を狙い、おかえしとばかりにみぞおちに至近距離からの一撃を放つ。
ドゴン……!
練習用の弓とゴム矢とは言え、まともに食らうと動けなくなるレベルのダメージが入る。
至近距離から、ましてや、急所を狙ったのだ。これで決着がついてもおかしくない、一撃。
「ふふ……やるでござるなぁ……」
だがリューウェンは無傷だ。しかも、放った矢のほうが粉々に砕けてやがる。
「あんたも、頑丈な身体してるじゃないか。やるな」
「ふっ、お互い様で、ござるよ!」
ぶん! とリューウェンが回し蹴りを食らわせてくる。
俺はバックステップでそれを回避しながら、リューウェンの頭を狙った一撃。
「ぬぅん!」
身体が回転し、死角となっている場所からのヘッドショット。
しかしリューウェンはまるで背中に目がついてるかのごとく、身体をねじってそれを回避した。