105.素手
帝城の訓練場にて、俺は神聖皇国の聖騎士、リューウェンと手合わせすることになった。
相手の身長は俺よりも遥かに上。
体格は言わずもがな。相手は鍛えまくっており、体のどこの筋肉も、岩のように硬そうだ。
「って、あんた獲物は?」
俺は訓練用の弓とゴム矢を持っている。
一方リューウェンの両手には何も持っていなかった。
「拙僧の武器はこの肉体でござるよ!」
腕を曲げて筋肉をアピールする。
なるほど、下手な武器を使うより、その鍛え抜いた体の方が頑強そうだ。
「あんたが武器使わないからって、こっちは手を抜かないぞ」
「望むところでござる」
スッ……とリューウェンが構えを取る。
右手のひらを前に突き出し、腰を落とす。
左手は腰のあたりにそえる。
独特の構えだ。だが無駄な力の入っていない、隙の無い構え。
俺は目が良い。筋肉の収縮具合や立ち姿から、相手の動きを予想できる。
だが彼の構えはあまりに、自然体だった。
どこからでも攻撃を打ち込めるし、逆に俺からの攻撃を、すべて裁ける。
ただ構えてるだけなのに、その立ち姿からは、長い長い修練を感じさせられた。
研究と努力の末にたどり着いたのであろうその構えを、さてどう攻略するか。
確実に一筋縄ではいかないだろう。
とりあえず、まずは相手の力量を見る。
俺は矢をつがえて射出。
得意の早撃ちは、魔蟲族との戦いを経て神速の域に達してる。
構えて、しぼり、打つ。この三つの動作をほぼ一瞬で行い、敵攻撃を放った。
パシッ……!
「おお、なんと見事な早撃ちでござる! 拙僧が攻撃をつかめなかったは、初めてだ!」
リューウェンの足下にゴム矢が突き刺さっていた。
ヘッドショットを狙ったのだが、次の瞬間には矢が落ちていた。
……なるほど。
「やるな、あんた」
「いやいや、おぬしこそ」