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嘘偽りで出来たこの世界が嫌いだ

 不思議な出出しで始まるが、この物語は遙か遠い遠い未来の話になる。

 そして、良くも悪くも進歩し過ぎてしまった。


 だがそれは、仕方が無い話でもある。


 人間の好奇心がある限り、世界の進歩は決して誰にも制御は出来ないからだ。

 逆にそれは、新しいことに挑戦すること、後戻りが不可能になった事を意味する。

 例えば、好奇心で立入禁止区域(たちいりきんしくいき)に入ったものの、警察が出動する程の大事になったり。

 身近な物であれば、強いからという単なる好奇心で入った部活が、練習がキツく入部後に引けなくなるなんて事がある。


 即ち好奇心とは、一度でも入ると容易に脱出ができない沼と同じなのである。

 そんな好奇心という、閉じない扉に入門した少年少女の物語である。


「改めましてこの秀真学園(・・・・)にご入学おめでとう御座います。合格点最低420点の難関高校に受かった皆様は、さぞ努力をしたでしょう」


 ここは、東京の都会に位置するエリート校の秀真(しゅうしん)学園である。

 この学校は綺麗事ばかりを並べた様な、偽りで固められた学園である。

 故に、努力だけでは、合格の二文字は目前には現れない。


「生まれ持っての地位」「才能」「学校の生活」合格出来るのは一握りであり、この学校は富豪が集合する学校だ。


「秀才な部分を真っ直ぐ伸ばすと因んで名付けられた学園だが、君達は何故この学園に入学したのかね。()()()()()()()()()()()()()()()()()


 すると、校長の白い手袋で覆われた掌が俺の方へと示した。

 入学した本当の理由は「将来の為と親に無理矢理入学させられた」が真相だが、そんな場違いな台詞を吐くほど馬鹿じゃない。


「俺は自分の長所を更に生かす為にこの学校へ来ました」


「その長所を生かすために秀真学園がある。まるで、学校の懐に入る様な完璧な回答だ」


 嘘偽りで出来たこの世界に腹を立てていた。

 ——だが、嘘偽りを創り上げるのは、自分というこの皮肉

 勿論、俺は富豪で、タワーマンションから見える一般的な男子高校生の愉しげな笑顔に憧れていた。


 我自身の言葉を聞き手に嘘偽り無くそのまま伝えられる。

 高校生(にんげん)が羨ましい。


「では、そこの君は?」


 この話題の底が尽きるまで続けるつもりなのか。

 校長は掌を今度は別の人へ移した。

 すると、スラっと整ったロングの茶色の女性が突然と席から立ち上がり気強にこう言い放つ——


「私はこんな学校本当は行きたくもなかったわ!もぅ、なんなの!」


 何言ってんだあいつ。馬鹿だ。

 合格の基準「学校の生活」をまるで吐き捨てたような言動だ。

 彼女の突飛(とっぴ)な行動と共に、彼女自身が指揮をとる様に武道館が騒めき始める。


「なんなんだ君は一体!」


 明らかな問題児に腹を立てた校長は、掌を演台に打ち付け怒鳴り指差す。

 血が昇る姿となった校長が珍しいのか、秀真学園の先生は目を見開いていた。


「私は友と受かる約束だったのに、あの子は受からなかったのよ!」


 そんなくだらない事で彼女は、地団駄を踏んでいるのか、言葉通りリアルで脚を交互にパタパタしてる。

 そもそも、学校生活の基礎基本の無い彼女が何故、この秀真学園に受かったのか新入生一同は疑問に思う。


「何故君は…受験に受かったのか、少し時間をくれたまえ…君に対し本当に我が校の子が疑いの目を今かけているからなッ!」


「いいわ、いくらでも調べなさい!」


 校長は他と違い苛立ちを込めた疑惑の眼差しを向けている様子だ。

 当然の如く校長はステージの演台の上にある生徒一覧の資料を手に取る。

 人差し指で生徒の顔をなぞり、身分証明書と合格確認をし始めた。


杠葉舞華(ゆずりはまいか)、そ、そ、んな我が校の500点満点中500点だと…」


 そうか、彼女は学校生活に劣らないくらいの天才だという事がいま証明された。

 俺でさえ480点合格、テストの中には超難関な問題も時折挟まれており、満点ほど秀才な人物は居ない。


 ——ハハハハ…俺は人間が嫌いだ。

 だけど、こんなにも心から受け入れたくなった人間は、杠葉舞華初めてだ——


 秀真学園の学校生活が幕を開け約三日が経過した。

 この三日間では学校の校則や構造や学食、詳しい事を全て学んだ。

 秀真学園の一年生の生徒は約350名、勿論あれから杠葉舞華に再開する事は一度もなかった。


「助けてぇ!」


 俺以外の皆が切磋琢磨(せっさたくま)部活をしている。

 そんな最中、図書室で自主学習を行い帰宅中のことだった。

 俺の鼓膜を甲高い幼女の悲鳴が通過した。


 なんだ。そういえば様子がおかしいな…いつもなら人通りの多い通学路なんだが。


「…無視をするか…いや気になるから向かおう」


 * * *


 二二四二年、五月十日。


 秀真学園の一年九組、クラスの端っこに窓際、つまりは、主人公的なポジション。

 二人の男子生徒が一つの机を中心に、頬杖を付きながら窓越しの高所ビルを眺めていた。

 空を浮遊し配達するドローン、警官は人型のAIが働いていて、車は自動運転、猫の手を借りたいなんて台詞を吐けなくなった。

 廃墟ビルに雲まで伸びるビル。弱肉世界、床を見渡せば下民、上を見渡せば片手にシャンパンを持つ富豪が。

 時代が進む度に弱肉強食な社会は悪い方向へ。


「…なぁ、傑…」


「なんだよ?直也」


 そこには、秀真学園の生徒とは思い難い普通の男子高校生の台詞が並べられていた。


「傑はいい加減、彼女作れよ…」


「はぁぁぁ!?聞き間違いかな俺の脳内は、お前に彼女はいないと反応しているんだけどなぁァァ!」


「黙ってろ」


「あ??」


 間宮傑と轟木直也は「喧嘩する程仲がいい」を象徴したもので、いつも口調が悪く、秀真学園からは悪のオーラをクラスで放っている。


「あと、今の時代スマホ使ってんの傑だけだぜ?」


「かもな、やっぱりそろそろ俺もノーホに替え時かな」


 ノーホとは、ノーフォンの略である。実際にはスマホはあるが、脳で指示し、ご飯や通販を頼んだりする。因みにドローンが配達に来る。


「変えるなよ、お前はスマホがお似合いだ」


 また、俺は力也と何故か喋ってる。

 仲が悪いのは自分自身も理解してる。


 俺自身コイツが大嫌いだ。


 いつも、未知の引力に引かれ窓際で、不服そうな表情を浮かべ互いに会話を交わしている。


「なんで、モテねぇんだろうな傑は、お前の兄は中学の時、モテててたのにな」


「兄な…頭も良かったし、ルックスも完璧だった——うるせぇよ!くっ、それが、俺と何が関係あるんだって言うんだよ!!!」


「双子と疑うくらい顔は傑と瓜二つだろ?今三年生だっけっか、関係あるよな家族なんだから」


「俺と兄は家族だった」


「だった?」


 間宮傑(おれ)間宮海斗(あに)は似たもの同士だった。

 ここにいる嘘偽りを吐き捨てる人間が嫌いで、普通の高校生に対し憧れを抱いている。


 そして、嘘偽りを吐き出すのは、()()()()()()()


「ずっと隠していや、嘘をついてきたんだが。俺の兄、間宮海斗は二年前に帰宅中、死んだ。理由もわからずな」


 何とも気まずい空気がそこにはあった。轟木直也は数秒、目を見開き沈黙をすると、唾を飲み込み「それは、すまない」と、謝った。


「まぁ、いい。過ぎたことは過ぎたことだ食いに行くぞ食堂に」


 * * *


 食堂前に群がる秀真学園の生徒たちは、目前に広がる灰色の景色を見つめ、偽造した笑顔を貼り付けていた。


「今日は…人手不足のため、学食は中止だとよ?力也どうする」


「弁当持ってきたのか、傑は?」


「持ってきてねぇよ。いつも学食なんだから」


「俺もだ…」


 食堂前に響き渡った二人の空腹の音。運動部の二人からしたら昼食が無いのは致命的である。


「あれ?力也?力也!」


 気付かぬうちに、人の群れの波に押し寄せられ、二人は呑み込まれてしまった。

 大きな声で『力也』を呼んでも、他の人の雑音にもみ消され、『間宮傑』の声は一向に届かない。


(やば!誰かに押されて体制が崩れるっ!)


 間宮傑の左足が他人の左足に引っ掛かり、前屈みに地面に向かって全身が大きく倒れる。


「ちょっと、、キミ!!何、私に床ドンしてんのよ!少しイケメンだからって勘違いしないで」


「へ?え、ごめん!」


「クズだわ!」


 間宮傑は自分よりも先に床に倒れていた人に対し、四肢で逃げ場を無くす床ドンをしてしまった。


「ハァァァァ!?グフォオ!」


「学食はやってなければ…!知らない人に床ドンされる!もぉう、今日は何なの!」


 腹部を彼女に全力で蹴られた後に、見せた気強い性格と茶髪のロングの容姿で気付いたが、——彼女の名は、杠葉舞華だ。俺の兄の間宮海斗が面白い人を見つけたと言っていた人だ。


(分かりかけてきた…。俺が力也から受ける謎の引力と舞華さんに床ドンした理由が!)


 学校が重要視している『学校の生活』を無視した様な、行動と言動が舞華と力也にはある。


(俺は…嘘偽りを吐かない人間にN極とS極の様に引っ張られる体質なんだ!)

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