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9 聖女の力

 聖女の待つ能力は、大きく分けて3つと言われている。


 一つは、癒しの力。

 二つめは、守りの力。

 そして最後に、邪悪なものを封印する力。


 前世でエリザベートは魔女を封印した。その時に自分の力を全て使い果たしてしまったのだが、相手は不老不死と言われる存在である。封印も永久ではなく、ある一定の年数が経てば解けることは分かっていた。封印が解けるのに合わせて自分も転生できるように、前世で一緒に旅をしていた腹心の従者───名前は思い出せないが、魔法の達人だった彼が調整する手筈になっていた。


 エリザベートが前世の記憶を取り戻した時に真っ先に考えたのはそのことだった。自分が今転生したということは、すなわち魔女の封印が解けかかっているか、あるいは既に解けてしまったということ。確認のため魔女の封印を施した教会に行かなくてはならないと思っていたところ、なんとエリザベート自身に魔女の嫌疑がかけられてしまった。


(……聖女が天からお告げを受けるなんて、聞いたことがないんだけど)


 エリザベートを魔女と名指ししたのがゾフィーだということにも驚いたが、今度は天からのお告げときた。しかし前世で自分が聖女として召喚されてから死ぬまでの間に、一度たりとも天のお告げなど受けたことがなかった。


 ゾフィーは伝説の聖女と同じ黒目黒髪であることに加えて、膨大な魔力を持っていることで聖女の生まれ変わりと言われている。だが、聖女の力というのは厳密に言うと魔力とは違うものだ。前世のエリザベートには魔力はなかった。今世ではシュタインベルク家に生まれたおかげで魔力は多いが、今のところ聖女の力を取り戻してはいない。


 記憶に所々欠落している部分があることも分かっていた。自分の名前や従者の名前も思い出せないし、無理矢理転生したことでいろいろと弊害が出ているのかもしれない。


「聖女って癒しの力があるんじゃなかった?」

「ええ、そう言われているわね」

「ゾフィーが癒しの力を使ったって話は聞いたことがないんだけど、兄上はどうして彼女が聖女だと信じられるんだろうね?」

「うーん………恋は盲目ってやつかしら?」


 顎に手を当ててエリザベートが首を傾げると、シュテファンがニヤリと笑った。


「そうかもね。僕も君がたとえ魔女だとしても構わないって思ってるから」

「私は魔女じゃないわ」

「知ってるさ。例えばの話だよ。それだけ僕が君に盲目だってこと」

「本当に……誰に似てそんなに口が上手いんだか……」


 歯が浮くような台詞をスラスラと並べるシュテファンをエリザベートが半目で睨むと、空色の瞳が寂しげに曇った。


「……僕は本気だと言ってるのに、信じていないの?」

「だって……今まで一度だってそんな素振りはなかったじゃない」

「いくら僕が王子だからって、兄である王太子の婚約者に堂々と言い寄れるはずがないよ」

「そうじゃなかったら言い寄っていたの?」

「もちろんさ」


 はっきりと言い切ったシュテファンに二の句が告げず、エリザベートは押し黙ってしまった。これまでフランツに婚約者として正当に扱われてこなかったせいで、エリザベートの女性としての自信は地に落ちている。

 しかし当の本人は知らないようだが、実は密かにエリザベートは男性に人気があった。名門シュタインベルク家のお嬢様で魔法の腕前は随一、輝く銀髪に透き通るような紫色の瞳を持ち色白で可愛らしい顔立ちにもかかわらず、性格は非常にさっぱりとしている。

 未来の王太子妃である彼女にシュテファンでさえ声をかけることができずにいたのだから、他の男性がかけられるはずもない。


(こんな魅力的な女性を放って他の女にうつつを抜かすなんて、兄上は本当に愚かだな)


 まあ、そのおかげでこうして自分が彼女の側にいることができるのだけれど。

 困ったように視線を彷徨わせるエリザベートの手を取り、シュテファンは彼女の耳元に顔を寄せた。


「言ったでしょ、僕は絶対に君を裏切らないって。これからじっくりと落としていくつもりだから、覚悟しててね?」

「っ……ひゃ……」


 耳元で低く囁かれた声と耳に唇が触れる感触に、思わず声が漏れる。


(シュテファンがこんな大人になってるなんて、聞いてない……!)


 エリザベートよりも2つ年下のシュテファンは15歳だ。少し前まで可愛らしい少年だったのに、いつの間にこんなに色気が出てきてしまったのだろうか。


「あの〜……お二人とも俺の存在を忘れてやしませんか?」


 甘ったるい空気が流れる荷馬車の荷台で、その場にいるもう一人の人物が恐る恐る声をかけた。


「何を言ってるんだ、ハンス。忘れるわけがないじゃないか」

「あ、そうですか……ならいいんですけど……」


 しれっと答えるシュテファンに、ハンスは言い返す気力もないようだ。エリザベートに至っては、ハンスに今のやり取りを見られていたことが恥ずかしすぎて自分の膝に顔を埋めてしまっている。

 四人での旅が始まってからずっとこんな調子だ。自分が馭者の時は見えないので気にしなくて済むが、同じ空間にいると嫌でも目に入ってきてしまう。


(なんなんだ、この空気……早く交代の時間にならないかな……)


 げんなりしながら、ハンスは荷馬車の馭者台の方に目をやったのだった。


ここまでお読みくださいまして、どうもありがとうございました。

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