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4 別れの時

「これから急ぎ五大魔導爵会議を開くこととなった」

「え、今から?」

「そうだ。父上はもう通信具の準備をして席に着いておられる」

「お兄様は行かなくていいの?」

「私の方はお前についているようにというお達しだ」

「それは……逃げ出さないように、見張れという意味?」

「いいや、そうではなくむしろ逆だ」

「逆……?」


 どういう意味かと首を傾げたエリザベートに、エルンストが力強く告げる。


「私の全知全霊をかけてお前の脱出をサポートすることを約束する。だからどんなことがあっても生き延びるんだ、エリザベート」

「お兄様……!!」


 優秀な魔術師である兄が全力でサポートしてくれるのなら、こんなに心強いことはない。嬉しさに涙ぐむエリザベートを見て、エルンストが薄く微笑んだ。


「愛するエリー。お前のためにこんなことしかできない兄を許しておくれ」

「そんな、お兄様!私はこうやってお兄様が助けてくれるだけで」

「いや、本当は王城に行ってあのバカ王太子を消し炭にしてやりたいところなんだが……それをやると、我が一門も無傷では済まされないだろうからな」

「そうよね…」


 エリザベートが相槌を打つと、エルンストは何かに耐えるようにギュッと目を閉じてから、ゆっくりと目を開けた。


「私としては非常に不本意なのだが……お前を我が一門から追放することとした」

「…………」

「そのことにより、お前にかけられているシュタインベルク家の加護魔法は消滅する。知ってのとおり、加護魔法が有効なうちは、いくら王家でもお前の命を奪うことはできない。その代わり、この国を出ると直ちに王家の知るところとなってしまう。加護魔法が無くなれば命の危険に晒されることになるが、自由に国を出ることができるようになる」


 五大魔道爵家の者にはそれぞれの家で加護魔法が施されているのだが、兄の言うとおりそれは諸刃の剣なのだ。


「今行われているのは、私を追放する承認を得るための会議なのよね?」

「そういうことだ」


 渋い顔で頷いたエルンストが、壁の時計を見た。


「あまりゆっくりしている暇はないぞ、エリザベート。いくつか転移門を経由して行くが、少なくとも今日のうちには国境を越えた方がいい」

「急いで荷物をまとめてくるわ」

「ああ。一時間後に迎えに行く。いいな?」

「はい」


 【無の間】を出たエリザベートは、一つ上の階にある自室へと向かった。部屋では既に侍女達がエリザベートの服やらを出し始めていた。


「お嬢様!……ご無事でよかったです」

「ええ…ありがとう、ナディア」


 幼い頃から一緒にいる侍女のナディアが、泣きそうな顔でエリザベートに駆け寄ってきた。彼女の弟であるハンスは、エリザベートが王城に残してきたまま未だ無事が確認できていない。


「ハンスを置いてきてしまってごめんなさい。いつも待機している場所に見当たらなかったのだけど、探している時間がなくて…」

「大丈夫ですよ。ああ見えて結構しぶといですから。絶対に生きています」

「そう言ってもらえるとありがたいわ」

「本当は私もお供したいのですが、足手まといにしかならないでしょうから…」

「ありがとう、ナディア。その気持ちだけで十分よ。……皆、これまでどうもありがとう。この先どうなるかわからないけれど、みんなのことは忘れないわ」

「「「お嬢様……」」」


 しんみりしてしまった空気を振り払うように、エリザベートは明るい声を出した。


「旅に必要な荷物をまとめるのを手伝ってちょうだい!丈の長いドレスやヒールの高い靴は要らないわ。街歩きに適した丈の短いスカートと、野営や訓練に使う動きやすい服、それからブーツなんかを出してもらえるかしら?」

「「「かしこまりました」」」


 トランクには空間魔法がかけてあり、見た目よりもたくさん収納できる。もう少し高度な魔法が使えればこの部屋のクローゼットと繋げることも可能なのではないかと思っているが、兄の研究でもまだそこまでには至っていない。


 予告どおり、きっかり一時間後にエルンストが迎えにきた。シンプルなシャツにぴったりしたパンツ、ブーツにフード付きのマントという旅装束に身を包んで現れた兄が、エリザベートに一枚のカードを差し出した。


「こういう時のために、我が家にはいくつか隠し口座がある。これはそのうちの一つだ。街の換金所でお前の生年月日を打ち込んで魔力を流すとお金を下ろすことができる。残り一生は裕に暮らせるぐらいの金はあるから、自由に使うといい」

「……ありがたくいただいていきます」

「ああ。……では行こうか」

「はい」


 屋敷の使用人達に見られないように、こっそりとエリザベートは生まれ育った屋敷を後にした。敷地内にある転移門の前に立つと、急に寂しさが込み上げてきた。


(もう、ここには二度と戻れないかもしれない)


 そう思った時に、門の方から誰かが駆け寄ってくるのが見えた。


ここまでお読みくださいまして、どうもありがとうございました。

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