33 見知らぬ店と怪しげな男
更新お待たせいたしました。
「ここ、どこ……?」
周りを見回したエリザベートの声が、がらんとした空間に響く。しっかり腕を掴んでいたはずのハンスとも何故かはぐれてしまい、何がどうなっているのか分からない。
(確かにシュテファンの魔石に合わせて転移したはずなのに)
魔術式の構築は、【変化】に次いでエリザベートが得意な分野だ。距離もそれほどなかったはずなのに、なぜ失敗してしまったのだろう?
「【光よ】」
上方にある明り取りから僅かに漏れる光から、ここが半地下のような場所だと推測する。手元を照らす呪文を唱えたエリザベートは、まず自分がいる空間をぐるっと回ってみることにした。
床には壺や木箱が置いてあり、棚には瓶が並んでいる。ここが前世で有名な某RPGの世界なら、壺を投げて割っているところだろうが、さすがに現実世界ではありえない。
「お店の地下倉庫なのかしら……」
そうひとりごちたエリザベートは、明り取りのある方──すなわち窓のある方とは反対側に梯子が立てかけてあることに気づいた。天井を見ると、跳ね上げ式の扉と思われる取っ手が付いている。あそこに金具を引っかけて地上への戸を開け、梯子をかけて上に登るのだろう。
「金具は……見当たらないわね。もしかして、金具はここにはないってこと……?」
通常地下に降りるのにまず地上から行くのが当たり前だから、地下に金具がないのはあり得る話だ。
(じゃあ、なんでここに梯子があるの?)
上から来た場合にまず梯子を下ろして、次に戻る時までそのままにしておくのであれば、ここに梯子は必要ないはずだ。
「意味が分からないんだけど……」
跳ね戸を引く金具はないのに梯子だけが置いてある意図が分からず首を捻りつつも、とりあえず魔法でどうにか跳ね戸を開けることにした。
「【動け】」
辺りを見回すと麻紐があったので、それを蛇のように操って取っ手に引っかけた。
「これでよし。……よいしょ、っと!」
グイっと力を入れて紐を引いたが、びくともしない。
「え、なんで……?」
何故戸が開かないのか考えているうちに、ふとその理由に思い当たった。
(地下に降りる時には上から開けるんだから、戸が下に開くわけないじゃない……)
自分の馬鹿さ加減に呆れつつ、立てかけてある梯子で下から押してみると、思ったよりも簡単に戸が開いた。開いた部分に梯子を立てかけてから、エリザベートは慎重に一段ずつ登って行った。
「……ふぅ。とりあえず地上には出られたみたいだけど……」
明かりから一番遠い場所に跳ね戸があったことからも、ここは建物の奥の方にあたるのではないだろうか。
(いきなり奥から人が出てきたら驚くよね……)
表から入ってもいないのに奥から現れる女なんて、不審者以外の何物でもない。足音を立てないようゆっくりと移動したエリザベートは、自分の前にぬっと現れた人影に思わず息を飲んだ。
「……っ?!」
「おや、思ったよりも早く出てきたね」
「は……? えっ、えぇ……?」
そう言って肩を竦めたのは、40代ぐらいの薄茶色の髪に茶色の瞳というごく普通の目立たない風貌の男。まるで自分がここへ来ることが分かっていたような物言いに、エリザベートは大いに混乱した。
(一体どういうこと……!?)
この男に会うのはこれが初めてだ。そのはずなのに、何故かエリザベートはこの男のことを知っている気がした。
「立ち話もなんだから、座って話そうか」
「……」
「来ないの?」
じっと観察するエリザベートを不思議そうに見る男は、一見どこにでもいそうな店のマスターといった雰囲気だ。しかし、柔らかい物腰で飄々とした雰囲気のわりに全く隙がない。
そして、不自然なほどに“何も特徴がない”。
「…………」
「……あれ? もしかして、警戒されてる?」
(そりゃ警戒もするでしょうよ! いきなり転移した覚えのないところに飛ばされて、来るのが分かっていたような口調で迎えられたらね!)
「……私をここへ移動させたのは、あなたの仕業ですか?」
そう問いかけながら、エリザベートはこの男の正体についてほぼ確信があった。あの“世紀の大マジック”とやらに無理やり参加させられた時もそうだった。
エリザベートが構築した移動陣を書き換えて、ハンスと違う場所に移動させるだけの技量を持つ人物など、一人しか思い当たらない。
それなりの魔力を持つ者は、通常その性質に応じた波長がある。エリザベートの勘が間違っていなければ、この男はかなりの魔力を持っているはずだ。にもかかわらず、魔力の波長とちぐはぐな印象を受ける。
それはつまり、本人が全く魔力を制御できていないか、魔力を隠すことができるほどの実力者か。二つのうちのどちらかということだ。
この男の場合は、もちろん後者。
「──ああ、そうだよ」
にっこり笑った男の瞳が、愉快そうに細められた。
大変長らく更新をお待たせしてしまい、申し訳ございません。
時間がかかりましたが、ようやく第5章の目処がつきましたので、続きを投稿します。
しばらく放置していたにもかかわらず見にきて下さった方、本当にありがとうございます。
とりあえず第5章が終わるまで、週2ぐらいのペースで投稿していきたいと思います。
よろしくお願いいたします。




