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30 一か八かの国境越え

「……もしかすると、兄上も吸い取られているんじゃないか?」

「その可能性はありますね。なんといっても王家は魔導爵家に劣らないほどの魔力持ちの家系ですから」

「つくづく愚かすぎて笑えない……」


 国王の決めた婚約者を魔女呼ばわりして追い出した挙句に、聖女だと思って代わりに迎え入れた女が実は本物の魔女だったなんて。


(エリザベートを手放してくれたことには個人的に感謝してるけど、それとこれとは話が別だろ)


実兄の愚行に頭を抱えるシュテファンに何と言葉をかければいいか思案していたエリザベートだったが、ふとあることに思い当たった。


「……じゃあ、ゾフィーがアカデミアで魔力を使っていた時も、誰かの生命力を奪っていたのかしら?」

「うーん、そうだねぇ……。アカデミアの、特に魔法クラスには魔力持ちがわんさかいるわけだから、魔力の供給はたっぷりあったんじゃないかな? 魔力をほとんど持たない人間にとっては魔力=生命力だから、吸い取られることがそのまま命を落とすことになりかねないけれど、魔力持ちの人間から少しずつ吸い取る分には、少し体調が悪くなる程度で済むんじゃない?」

「なるほどね。一理あるわ」

「ともかく、これで君の魔女疑惑は晴れたわけだ」

「そうね。でも、国王陛下の前で私が魔女でないことを証明しなければならないわ」

「確かにそうだけど、ゾフィーが魔女だと分かった以上、そのことを皆の前で証明する方が簡単な気がするけどね」

「そう? これまで上手くやってきたゾフィーが、そんなに簡単に尻尾を出すかしら?」

「皆が知っている彼女の姿は嘘偽りなんだから、何かしら方法はあるはずだよ。兄上はともかく、父上は完全に信じ切っているわけではないだろうしね。……まあ僕は最初から、君が魔女だなんてこれっぽっちも疑っていなかったけど」

「あ、ありがとう……」


 パチンとウィンクされて頬を染めるエリザベートを、シュテファンが抱き寄せた。


「エリー、もしかして照れてるの?」

「そんなことないわ……」

「可愛い」

「シュテファン……っ」


 チュ、チュ、と顔の色んな場所にキスを落とされて、恥ずかしさに身を捩って逃げようとするエリザベートと、逃がすまいとさらに抱きしめる腕に力をこめるシュテファン。ただイチャイチャしているだけにしか見えない二人から、ハンスとゲオルグが無言で離れていく。


(いつものこととはいえ、独り身にはキツイなぁ。ああ俺も彼女が欲しい……)


 そんなことを思いつつ、御者台に乗ったハンスが後ろに声をかける。


「そろそろ出発しますよー」

「っ……、ほ、ほらシュテファン! 出発するって!」

「……はぁ。仕方がないな」


 しぶしぶ腕の力を緩めたシュテファンが荷台に戻るのを見て、ホッとエリザベートが息をつく。


(しょっちゅうあんなことされたら、心臓が持たないよ……)


 シュテファンに告白されてキスを交わしてからというもの、彼のちょっとした仕草やふとした時に見せる表情、自分に向けてくれる笑顔など、とにかくあらゆる場面でドキドキするようになってしまった。


(私、シュテファンのことが好きなのかしら……)


 フランツから受けていた扱いのせいですっかり恋愛事に疎くなっていて、自分の気持ちがよく分からない。でも、このドキドキする感覚は多分初めてじゃない。それが前世の日本でのことだったのか、転移して聖女として過ごした時のことだったのか、分からないけれど。



*****



 国境を越えるときに、ちょっとしたアクシデントがあった。アーベル王国民が他国の国境で検問を受ける際に、王国騎士団から派遣された騎士のチェックを受けなければならないからだ。

 これまではずっとラングル連邦の自治国間を移動していたため、そこまでのチェックは受けなかった。エリザベート達全員が指名手配されてから、チェックが強化されたらしい。エルンストからの手紙で事前にその情報を掴んでいた一行は、二手に分かれることにした。


「万一のことを考えて、やっぱり戦いに有利な組み合わせがいいと思う」

「そうね。……ハンスは私と兄妹ということにしましょう」

「え、お嬢と兄妹ですか!? そんな恐れ多い……」

「ごちゃごちゃ言ってないで行くわよ! 髪の色も合わせるから」


 言うが早いか、エリザベートの髪の色はハンスの変装に合わせたブロンドへと変化した。


「シュテファン達も兄弟設定にする?」

「いや、僕達は商人とその弟子にするよ」

「……殿下が私の弟子ですか?」

「たまにはいいだろう?……ほら、これで商人っぽくなった」


 ここのところ赤毛のモヒカンが定着していたゲオルグは暗めの茶色の髪に、シュテファンはくすんだ麦色の髪へと変化した。


「……じゃあ、まず先に僕達が行こう」


 ルードヴィヒが用意してくれた通行証を手に、シュテファンとゲオルグが馬車に乗り込む。抜き打ちで荷物検査をされてもいいように、商人に見えるような積み荷は入れてある。


「例の場所で落ち合おう」

「分かったわ。気を付けてね」

「ああ。君達も」


ここまでお読みくださいまして、どうもありがとうございました。

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