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25 エリザベート様を愛でる会

「お嬢さん、手が止まってるよ」


 恐る恐る見上げた先には、涼しげな榛色(ヘイゼル)の瞳。柔らかそうなダーク・ブラウンの髪を揺らして、背の高い美丈夫が微笑んでいた。


「……何か御用でしょうか?」

「アンジェラ・ケルトナー、16歳。ヴィッツハルトの宿屋『ルクセン』の一人娘。魔術学校(アカデミア)2年生、魔法学Bクラス、図書委員会。愛読書は『メイベルは今日もイケメン騎士から迫られています』。仲が良い友人は、ユリア・ブリュック、クラウディア・ユング。エリザベート様を愛でる会、会員ナンバー25。初恋相手は幼馴染のアルベルト、現在のボーイフレンドは──」

「わーーっ、ストップ、ストップ!!」


 立ち上がって自分の言葉を遮ったアンジェラに、ブラウンヘアのイケメンことクラウス・フォン・グリューデンがわざとらしく首を傾げてみせた。


「──ん? どうしたの?」

「なっ、なんなんですか!? いきなり話しかけてきたかと思ったら、個人情報べらべら喋り始めて!」

「あれ? もしかしてどこか間違ってた? もしそうなら、ちょっと実働部隊のメンバー見直さなきゃならなくなるんだけど」

「いや、合ってますよ……って、そういう問題じゃなくて!」

「じゃあ、どこら辺が問題なの?」

「いやいや問題だらけでしょ………っ!?!」


 相変わらずすっとぼけているクラウスの後ろからやってきたもう一人の男性を見て、アンジェラは息を呑んだ。

 さっきまでフードで隠れていた髪が、窓から差し込む陽の光を受けてキラキラと銀色に光っている。女性受けする甘めの顔立ちのイケメンであるクラウスに対して、こちらはクールなイケメンといったところか。


「──クラウス。俺達には彼女の協力が必要なのに、怒らせてどうするんだ」

「いやぁ、なんか面白いじゃないですか。プンスカ怒っているところとか、小動物みたいで」

「はぁ……」


 ふざけた回答をするクラウスを見て呆れたように溜息をついたクール系イケメンが、じっとアンジェラを見る。吊り目気味のアメジストの瞳に見つめられ、アンジェラは鼓動が大きく跳ねたような気がした。

 

「突然申し訳ない、お嬢さん。この失礼な男は、クラウス・フォン・グリューデン。アカデミアで見かけたことがあるかもしれないな。私は訳あって今は名乗れないが、彼の友人だ。私のことは、そうだな……エストとでも呼んでくれ」


(銀髪に紫色の瞳ということは、やっぱりこの人……)


 アンジェラの知る中で同じ色の組み合わせを持つ人物は、ただ一人。彼女には、魔法の研究と称して王太子側近の誘いを断り続け、滅多に表舞台に出てこないと噂される兄がいるはずだ。


「君の個人情報は他には漏らさないと約束する。その代わりと言ってはなんだが、少し私達の話を聞いてもらえないだろうか?」

「……まぁ、少しだけなら」

「ありがとう。じゃあ、失礼させてもらうよ」

「あ、はい」


 テーブルの向かいにエストと名乗る男とクラウスが腰を下ろしたのを見て、アンジェラも自分の席に座り直した。一瞬だけ感じた鼓膜を圧迫する感覚に、音声遮断魔法をかけられたのだと気づく。


(……今の一瞬で、あの魔法を?)


 普通なら声に出して詠唱しないと出来ない魔法を、顔色一つ変えずに一瞬でかけるなんて常人ではありえない。次期筆頭魔導爵の実力は、やはり尋常じゃないということか。


「早速だが、始めようか。……ゾフィー・リンブレッドという生徒を知っているね?」

「はい」

「彼女が魔法を使うところを見たことがあるかい?」

「はい、初めのクラス分けの時に一度だけ。その後は彼女が特別クラスに行ってしまったので、見ていませんが……」

「ああ、それは気にしなくていい。……もし覚えていればでいいんだが、彼女が魔法を使った時どんな感じがした? ちゃんとした言葉じゃなくてもいいから、感じた印象を聞かせて欲しいんだ」


 エストに問われ、アンジェラは一年以上前の記憶を掘り起こしてみる。

 あの日はクラス分けテストの後、気分が悪くなる生徒が続出したので覚えている。アンジェラもなんとなく体が怠くて寮に帰ってからすぐに寝たのだが、翌日もあまり調子がよくなかった。

 ゾフィーの桁違いの魔力にあてられたのだろうと保健医の先生は言っていたが、本当にそうだったのだろうか……?

 

 そのことを説明すると、エストが「なるほど」と頷きながら隣のクラウスを見た。今度はクラウスがアンジェラに問いかける。


「君は翌日休まなかったんだね」

「はい、休むほどではなかったので。翌日に休んだ生徒もいました」

「休んだ生徒は誰だったか覚えているかい? 名前は分からなくても、その後どこの魔法クラスに行った生徒か、とか……」

「…………あ。そういえば」

「何か思い出した?」


 翌日に出席した生徒達は皆、魔法学がBクラス以上だった。廊下に貼り出した紙を見て、不思議なこともあるものだと言い合ったことを思い出した。


「翌日に休んだのは、Cクラス以下の生徒達ばかりでした。……でも、そのこととゾフィーが何か関係あるんでしょうか?」


 ゾフィー・リンブレッドと同じタイミングで、五大魔導爵家のうちのニ家の人間がヴィッツハルトにやってきている。しかもそのうちの一人は、魔女だと言われ国を追われているエリザベートの兄。

 これが単なる偶然のはずがない。


 互いに顔を見合わせた男二人が何か言いたげに自分を見てきて、アンジェラはゴクリと唾を飲み込んだ。

 これから聞く言葉は、きっと自分の人生を大きく変えてしまう。そんな予感がした。


「会員ナンバー25である君のことだ、恐らくすでに私の正体に気づいているのだろう?」

「…………」


 エストに問われたが、どう答えるべきなのか分からない。だが返答に詰まるその態度こそが、すなわち肯定を表していた。

 エストに両手をガシッと握られ、アンジェラの口から素っ頓狂な声が出た。


「エッ、エスト様!?」

「そんな君を見込んで、頼みがある。彼女を助けることができるのは、君しかいないんだ。……お願いできるかい?」

「はいぃ……」


 憧れの人とそっくりのイケメンから熱心にお願いされて、アンジェラに断るという選択肢など無いに等しい。 "お願い"の内容も聞いていないのに、気づいたら勝手に口から承諾の言葉が出ていた。


(うわ……まるで結婚詐欺師みたいじゃないか)


 無自覚でやっているところがさらにタチが悪い。手を取り合い見つめ合う二人を見て、クラウスは苦笑いを溢したのだった。


ここまでお読みくださいまして、どうもありがとうございました。

第三章はこれで終了となります。

第四章開始まで、しばらくお待ちください。


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