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23 シュテファンの嫉妬

「……あのさ。好きな子が他の男に会いに行く話を嬉しそうにしてるのを見て、面白いわけないでしょ」

「ええ……? 会いに行くって言ったって、相手はジュール・ポワティエだよ? 世紀の大魔術師だよ?」

「男であることには違いないよね」

「そ、そりゃそうだけど……私にとっては雲の上のような人だし、向こうからすれば私なんてお子様だろうし……」

「でもエリーのことを『美女』って言ってたよね? 彼がちゃんと君を異性として意識してるってことだ」

「いやいや、あれは営業トークでしょ?」

「それでもやっぱり面白くない。しかも君は彼にずっと憧れていたよね。憧れが恋愛感情に変わるなんてよくあることだし」


 しつこく食い下がるシュテファンに少しイライラしながら、エリザベートも反論する。


「いや、だってこの前初めて会ったんだよ? どんな人なのか知らないし、私が尊敬しているのはあくまで魔術師としてのジュール様で、人としてはどうか分からないじゃない」

「でも憧れてるってことは、少なくとも嫌いではないってことだ。違う?」

「まぁ、違わないけど」


 しぶしぶ認めたエリザベートを見て、今度はシュテファンが不満そうに口を尖らせた。


「ねぇ、エリー」

「……なに?」

「もしジュール・ポワティエに好きだと言われたら、どうする?」

「え?」


 あのジュール・ポワティエがそんなことを言うところがまず想像できない。ましてやその相手が自分だなんて。


(……あるわけない。だって、魔術だけが取り柄の可愛げのない女だもの)


 シュテファンはエリザベートのことを好きだと言ってくれるが、それはきっと幼馴染としての親愛の情も含まれているからだ。


「突然何を言い出すの、シュテファン。そんなの──」

「あり得ない話じゃないでしょ。実際、彼は君のことを気に入ってるみたいだったし」

「……私のこと買い被りすぎなんじゃない? 男の人は私みたいなタイプは好きじゃないでしょ」

「もしかして、兄上が言ったことをまだ気にしてるの?」

「気にしてるっていうか、本当のことよね?」

「エリーは可愛いよ」


 さらりと褒め言葉を口にされて驚くが、シュテファンは真顔だ。真剣な眼差しで見つめられ、エリザベートの顔が熱くなってくる。


「あ、ありがとう……そう言ってくれるのはシュテファンだけよ」

「そんなことないさ。君が知らないだけで、エリーは学園ですごく男子生徒達に人気があるんだよ。密かにファンクラブもあるくらいなんだから」

「えっ、うそ……」

「嘘じゃない。それなのに全然自覚がないし無防備すぎるから心配なんだ」

「で、でも……学園ではいつも男子生徒からは遠巻きにされていたのよ? 今まで生きてきて好きだと言ってくれたのは…………その、シ、シュテファンだけ、だし…………ぅ、わぁっ!?」


自分で言いながら恥ずかしくなってきて目を逸らしたエリザベートを、シュテファンが勢いよく抱きしめた。


「ああぁ……やっぱり可愛い! エリーの可愛さが分からないなんて、本当に兄上は馬鹿だな。うん、知ってた。…………でも、あのジュール・ポワティエは馬鹿じゃない」


 低い声で付け足したシュテファンが、腕の力を緩めてエリザベートの顔を覗き込んだ。


(ち、近い……!!)


 息がかかりそうなほど近くにある整った顔のせいで、動悸が激しくなってくる。


「エリー。……僕のこと嫌い?」

「ううん……嫌いじゃないわ」

「じゃあ、好き?」

「それは……」

「……それは?」

「…………」

「わからない?」


 小さく頷くと、そっと包み込むように両頬にシュテファンの手が添えられた。ビクッと肩を揺らしたエリザベートは、ごく至近距離で見つめてくる空色の瞳から目が逸らせなくなってしまった。


(どうして、そんな切なそうな目をしているの?)


 空色の瞳に吸い込まれそうな気がして瞬きもできずにいると、エリザベートの唇に柔らかいものが触れた。


(……え? 今のって……)


 伏せられた水色の瞳と長い睫毛がすぐ目の前にあることで、シュテファンにキスされたのだと気づいた。


「な、な、なっ」

「嫌だった?」

「……え?」

「僕にキスされて、嫌だった? 嫌ならもうしないよ」


 切なげに揺れる水色の瞳を見つめ返す。ドキドキしているし驚いたけれど、嫌な気持ちは全くない。それよりむしろ──。


「……ううん、嫌じゃない」

「じゃあ、もう一回してもいい?」


 返事の代わりに黙って頷いたエリザベートを見て、シュテファンが嬉しそうに目を細める。

 綺麗な顔が再び近づくのを感じて、今度はちゃんと目を閉じた。さっきよりも深く口付けられ、頭の中が痺れるような感覚がして何も考えられなくなってくる。


「……エリザベート」

「……っ」


 唇が軽く触れたまま低い声で囁くシュテファンの吐息を感じて、エリザベートは身を震わせた。身体に力が入らず、縋るようにシュテファンのチュニックを掴んだ。


「好きだ。君を誰にも渡したくない」

「シュテファン……」

「約束して。ジュール・ポワティエにも、他の誰にも、こんなふうに君に触れさせないと」

「こ、こんなこと……他の誰ともしないわ」

「本当に?」

「だって……今の私は魔女の疑いがかけられたお尋ね者よ?」

「そんなことをあの男が気にすると思う?」

「だから、ジュール様は私みたいなお子様──」

「君がお子様だって言うなら、僕はもっとそうだ。大人の男に君が籠絡されるのを指を咥えて見ているなんて、考えただけで気が狂いそうだ」

「籠絡って……そんな、大袈裟よ」

「大袈裟なんかじゃない。君は自分で思っているよりずっと魅力的なんだから」


 水色の瞳で甘く蕩けるように見つめられて、気恥ずかしさに目を逸らしたエリザベートの耳元でシュテファンが囁く。


「ねえ、エリー。もう一回、いい? 僕とのキス、嫌じゃないんだよね?」

「えっ、それはそうだけど……ぅんん!」


 3度目はやや強引に奪われた。2度目よりもさらに深く、そして長いキスにエリザベートは息も絶え絶えだ。


(何処でこんなこと覚えてくるの? 王族の閨教育に含まれているのかしら……?)


「っ、は……ぁ、シ、シュテファン……もう、っ」

「ああ、これ気持ちよくて病みつきになりそう」

「……んっ、んぅ」


 それから幾度となくキスをされてすっかりフラフラになったエリザベートは、上機嫌のシュテファンに抱えられて自分の部屋へと運ばれたのだった。


ここまでお読みくださいまして、どうもありがとうございました。

活動報告には第三章は全6話と書きましたが、あと2話追加して全8話とします。

よろしくお願いします。

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