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13 癒しの力

「ゾフィーとやら。そなたの癒しの力でこの者達を治すことは可能か?」

「はい、もちろんでございます。このように困っている方々をどうして放っておくことが出来ましょう?」


(これまで聖女と持ち上げられていながら何もしなかったくせに、よくもいけしゃあしゃあと……)


 黒い瞳を潤ませながらそんなことを言ってのけるゾフィーを、ルードヴィヒは胡乱げに見やった。

 この場だけを見れば、慈悲深い聖女が体の不自由な人々に優しい言葉をかけているように見えるだろう。実際に近衛騎士達は皆うっとりした表情でゾフィーを見つめている。

 しかしさっきのフランツへの助言といい、堂々と国王を正面から見つめ返す度胸といい、どう見てもこの娘はただの平民出身の心優しい少女などではない。


「ほぅ……では、この場でこの者達を治してみせよ。見事に治すことが出来たなら、そなたとフランツとの婚約を認めようではないか」

「……かしこまりました」


(……さて、お手並み拝見といくか)


 人々が見つめる中、脚を引き摺っていた男性の前に立ったゾフィーが、目を閉じて両手を翳した。


 パァーッとゾフィーの両手の掌から出た赤い光が、男性の左脚を包み込む。あまりの眩しさに思わず目を閉じてしまう者が多い中、ルードヴィヒは注意深くゾフィーの様子を見つめていた。


(この赤い光……どこかで………?)


 聖女の癒しの力については書物による伝承しか残っていないので、実際にはどのようなものか誰も知らない。一般的には神官が使う回復魔法の上位魔法のようなものだと考えられているが、回復魔法は通常白い光となって見えることが多い。


「…い、痛くない!歩ける……歩けるぞ……!!」


 脚を引き摺っていた男性が恐る恐る足を踏み出すと、驚いたように声を上げた。二歩、三歩……と少しずつ歩みを進めていき、ついに連続して歩き始めたのを見て、その場にどよめきが起こった。


「すごい…これが聖女様の力か……!」

「聖女様、私も早く治してください!」

「私もお願いします!」


 我先にと取り囲む者達を、順番に癒していくゾフィー。何かに取り憑かれたかのようにその姿に魅入っているフランツを、父親である国王が冷ややかな眼差しで見下ろしていた。


(これは本当に癒しの力なのか………?)


 国王の側に控えて一部始終を目撃していたルードヴィヒは、目の前で繰り広げられている出来事に何か釈然としないものを感じていた。ゾフィーが脚の不自由な人を治すところを、確かに見た。それについては誤魔化しようもない事実だ。

 しかし、先程からゾフィーが使っている赤い光からはとても嫌な感じが拭えない。具体的に何が?と問われても上手く説明出来ないが、長らく筆頭魔導爵として数々の現象を見聞きしてきた者としての勘がそう告げていた。


「ふむ……どうやら、お主の持つ聖女の力は本物のようだ。我が国に今世の聖女が降誕したことを歓迎しよう。……そしてアーベル国王の名において、ここに王太子フランツと聖女ゾフィーとの婚約を正式に認めることを宣言する」

「……父上!ありがとうございます!!」


 ゾフィーとの婚約を認めてもらい喜色満面のフランツと、その隣で控えめに微笑む聖女ゾフィー。その場にいる誰もが、お似合いの二人だと口々にお祝いの言葉を述べた。───ただ一人、無表情で玉座の脇に立つ人物を除いては。


(さて……これからどうするか)


 ゾフィーが聖女だと認められれば、自動的にエリザベートは魔女認定されてしまうことになる。これまでは王太子が私的な兵で追跡していただけだったが、今後は国を挙げて……いや、もしかすると大陸全体でお尋ね者になる可能性もある。


「ルードヴィヒ」

「はい、陛下」

「不満があるようだな?」

「陛下のお言葉に異を唱えるなどとんでもございません。……ただ、王太子殿下とエリザベートの婚約は陛下からの要請により成ったもの。それを一方的に反故にするような形で破談とされただけでなく、さらに魔女の汚名を着せられることについては、些か疑問を感じざるを得ません」

「そうか…」


 ふむ、と顎を撫でた国王フリードリヒが息子の方へと視線を移す。そして、しばらく黒目黒髪の少女を興味深げに見つめたかと思うと、ふと口元を歪めた。

 その嗜虐的な笑みに微かに嫌な予感をを覚えつつ、ルードヴィヒは国王の次の言葉を待った。

ここまでお読みくださいまして、どうもありがとうございました。

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