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10 理想的なパーティー

 何とか無事に国境を越えたエリザベート達は、それからさらに何度かの転移を繰り返してラングル連邦自治国の一つキリクという国に来ていた。山間部に出現する魔物を退治しながら旅をする冒険者パーティーという体である。


 一緒にいる神官はゲオルグという名前で、パーティーを組むためには治癒者(ヒーラー)が必要だろうとシュテファンが連れてきたらしい。


(そんな理由で逃亡生活をさせられているゲオルグには同情しかないけど、悔しいことにこれがまたパーティーとしては理想的なのよね……)


 全てにおいて高い能力を持つオールラウンダーのシュテファンが勇者タイプとすると、ハンスは武闘家、ゲオルグは僧侶、そしてエリザベートは魔法使い。前世で大ヒットした某有名RPGの典型的な構成であるこのパーティーは、実際にとてもよく機能していた。


「それにしても、どうして俺だけそこらへんの破落戸(ゴロツキ)みたいな名前なんですかね?」


 冒険者として登録するために、エリザベートはリジー、シュテファンはエヴァン、ハンスはガッシュ、そしてゲオルグはグロウという偽名を使っているのだが、どうやらハンスは自分の偽名が気に入らないらしい。


「強そうな名前でいいじゃないか。僕は格好良いと思うよ」

「いや、絶対思ってませんよね?」

「ハンスは疑り深いなぁ。……エリザベートはどう思う?」


 シュテファンに話を振られて、エリザベートがにっこりと微笑む。


「いいと思うわ。逞しくて力強いハンスにぴったりよ」

「…………そうですか」

「ふふっ、ハンスったら。拗ねているの?」

「べっつにー。そんなことありませんよー」


 遠い目をしたハンスが口を尖らせる。その様子を見たエリザベートが可笑しそうに笑うのを見て、ハンスが再び口を開いた。


「お嬢様……そうしてると本当にパッと見誰だかわかりませんね」

「そう?」

「はい」


 肩より少し短い長さにカットされた茶色の髪を指でつまんだエリザベートに問われて、ハンスが頷く。

 故国のお尋ね者となってしまったため、エリザベートは髪と瞳を魔法で変えている。見た目を変える【変化(メタモルフォーゼ)】は、エリザベートが一番得意とする魔法。腰まであった髪は肩までの長さに、銀髪とアメジストの瞳はどちらも平凡な茶色へと変わっていた。


 シュテファンも【変化(メタモルフォーゼ)】を使うことができるが、エリザベートほど得意ではないので、髪の色を焦茶色に変えるのみである。


「まあ、僕はエリーがどんな姿になっても絶対にわかる自信があるけどね」

「あ、左様ですか……」

「うん」

 

 満面の笑みで頷くシュテファンに、ハンスはもはや突っ込む気にもなれないようだ。ハンスの反応に全く構うことなく、シュテファンは笑顔のままエリザベートの方へと視線を移した。


「昔、エリーが僕の瞳の色が好きだと言ってくれたよね?だから、瞳の色は変えないことにしたんだ」

「……そんな昔のことをよく覚えていたわね」

「エリーに関することを僕が忘れるはずがないじゃないか」

「……っ」


 じっと見つめてくる空色の瞳が眩しすぎて、エリザベートは思わず目を逸らしてしまう。フランツから何年間も邪険に扱われたせいで、真っ直ぐにぶつけられる好意にどう返していいのか分からない。

 ただ、エリザベートへの害意が無いことだけはすぐにわかったので、エルンストが施した拘束魔法は旅を始めて早々に解除していた。魔物と戦うのにシュテファンの戦力が必要だったことも理由の一つだ。


「……ねぇ、エリザベート」

「なに?」

「君が追いかけてる例の魔術師だけど──」


 言葉の途中で、シュテファンがハッと顔を上げる。同じく何かを察したエリザベートとハンスが馬車の進行方向を見たのと同時に、馬の嗎が聞こえて馬車がガクンと大きく揺れた。


「どうした、ゲオルグ!」

「前方に魔物がいます。……おそらく、魔狼か魔猪の類ではないかと」


 緊迫したゲオルグの声を聞いて、エリザベート達に緊張が走る。


「行けるか、ハンス?」

「はい」

「防御魔法をかけるわ」

「ああ、頼む」


 剣を持って外の様子を窺うシュテファンとハンスに、素早く防御魔法を施す。


「ゲオルグとエリザベートは後方支援を頼む。…行くぞ、ハンス!」

「はい!」


 荷台から飛び出していった二人の後から、エリザベートも外に出る。馭者台で両手を合わせて祈るようなポーズをとっているゲオルグは、おそらく馬車の周りに結界を張っているのだろう。


 ガルルルル…という唸り声が複数聞こえたかと思うと、木の陰から魔狼が数体出てきた。


(1,2,3,4…5。全部で5体ね。後ろにいる一番大きいのがリーダーかしら?)


 ハンスはアカデミアの武闘大会で優勝するほどの腕前の持ち主で、身体の大きさを生かした力強さと素早さの両方を兼ね備えている。さらに天性の勘の良さと判断力の速さも加わって、幼いころから剣において才能を発揮していた。

 一方でシュテファンの方は剣筋が非常に美しく、まるで優雅な舞を舞っているかのような戦い方をする。力強さにはやや欠けるものの、魔力を剣に纏わせることによりそれを補っている。魔狼は氷魔法が弱点とされるため、今回は氷の魔力を剣に纏わせることにしたらしい。


 それぞれ2体ずつを相手にしながら、シュテファンとハンスが素早い身のこなしで魔狼を倒していく。氷魔法で白銀に光ったシュテファンの剣に斬られて4体目の魔狼が倒れる直前、後方にいた5体目が動いたのが分かった。


「危ない!……【氷結(アイスバーン)】!!」


 咄嗟に両手を前に出して呪文を唱える。エリザベートの魔法を受けて一瞬にして凍り付いた魔狼が、空中にジャンプしたままの姿勢でドサッと地面に落ちた。

ここまでお読みくださいまして、どうもありがとうございました。

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