足掻いてから死ね
「もしかしたら、私はもう何もしないほうがいいかもしれない……」
家族を救おうと両親をダイエットさせたら、別れて暮らすことになった。
父様が活動的になったら、宰相が救われた代わりにフランが命を狙われる。
手がかりに気づかず、暗殺者を隠れ家に引き込む。
運命の女神に後押しされて運命に介入してきたけど、私の行動はいいことばかり起こしてきたわけじゃない。
私の行動が新たな悲劇を生み出すことになるかもしれない。
そう思うと、もう何をするのも怖くて仕方がなかった。
「だからといって、悪意に流されるまま死ぬ気か?」
「……っ」
「お前が言った言葉だろう」
「フランは……知らないから……! 私に何ができるのかわかってないから、言えるんだよ!」
「それは、お前も同じだろう。俺が何を知っていて、何ができるか知らない」
「私のは……そういうのとは……違うっ」
「違わない」
フランが私の腕を引っ張った。顎を掴み、青い瞳が無理やり私の瞳を覗き込んでくる。
「足掻け」
それも私が言った言葉だった。
「どうせこのままただ逃げていても、暗殺者に殺されるだけだ。足掻け、奴らに最大限の迷惑をかけてから死ね」
「……っ」
「お前が願うなら、どんな手段であっても、俺が手助けしてやる」
じわりと視界が歪む。
こんな最低な状況でそんなこと言うの?
泣くしかないじゃん、こんなの。
「げ、言質とったからね……どんなことでも手を貸しなさいよ?」
「ああ、なんでもしてやる」
ふと口を緩めて、フランは私から手を離した。私は大きく深呼吸を繰り返す。
そうだ、落ち着け。
ただ待っていても運命は良くならない。
放っておいても世界が滅びるだけ。
私の行動で悲劇が起きるなら、その悲劇の運命さえ捻じ曲げる方法を考えろ。
大事なものを守るために、最後まで足掻くんだ。
考えろ。この状況を改善するための方法を。
私にはまだ何かできることがあるはずだ。
「……追手を撒くにしても、獣人をどうにかしなくちゃいけないわね」
彼女の感覚の鋭さと、猫に変化するスキルは強力だ。どんなに逃げ隠れしても、相手が彼女を連れている限り、見つけ出されてしまうだろう。
「えっと……何か手がかりはなかったけ……」
私はバッグの中から『攻略本』を取り出した。獣人ツヴァイに関する情報の中に、有効なものがあるかもしれない。
「いきなり日記を取り出して、何をするつもりだ?」
「ちょっと黙ってて。あと、日記を覗いたら殺すから」
他人には、ポエムな黒歴史ノートに見えてるんだよね。
そんなもの読みながら対策を考えるなんて、めちゃくちゃ痛い行動に見えるだろうけど、今はそんなことを気にしていられない。
考えろ。
どこかに、何かあるはずだ。
聖女だって呪いを何とか躱して、ツヴァイと逢瀬を重ねていたのだから。
「一番いいのは、『停止の言葉』を唱えることよね」
「なんだそれは」
「獣人を操ってる呪いを逆手にとって、あの子を無理やり止めるの。でも、呪文には獣人の名前が必要なのよ」
攻略の重要キーワードだから、停止の呪文自体は攻略本に書いてある。ゲーム中に何度も見たフレーズだから、余裕で暗唱できる。
しかし、問題がひとつある。
停止の言葉は最後に対象者の名前を呼ばなければ効果がないのだ。
あの女の子は、死ぬ運命にある『ツヴァイの末の妹』の可能性が高いけど、その名前までは攻略本に書かれていない。
「……名前なら、わかるかもしれない」
「マジで?」
フランの言葉に、私は素で叫びそうになってしまった。






