優しい気遣い
「つっかれた……」
ヘルムートのランス領独立宣言のせいで大法廷がお開きになったあとも、私は王城に残っていた。いや、残らされたというべきか。
王城の医師も含めて脳のダメージを想定して動ける医療系の魔法使いがほとんどいなかったからだ。
聞きかじりでも『脳梗塞』という病気を知ってる私がセシリアと協力して状態を維持。ハルバード侯爵邸からかけつけたディッツに病状を伝えて、バトンタッチして気が付いたらもう夜中だった。
控室として用意してもらった部屋のソファに座り込む。体中がずっしり重くて、これ以上動けそうになかった。向かいに座るセシリアも、はあ……と重いため息をもらした。
「失礼します」
ノックの音とともに、フィーアが部屋に入ってきた。その手には大きなバスケットを抱えている。
「宰相閣下からの差し入れです。伯爵の看病で食事もとれてないだろうから、と」
「助かるう~……」
食べ物、と聞いて急に空腹感が襲ってきた。
そういえば、ずっと何も食べてなかったんだった。
集中しすぎると無意識に我慢してしまうのは、私の悪い癖だ。
「お腹、すきましたね……そういえば」
セシリアもふにゃ、と眉を下げる。
「宰相閣下が手配したものなら、安全ね。今のうちに食べましょ」
バスケットをテーブルに置いてもらって、カバーを取る。
「さすが宰相家、差し入れランチセットも豪華……あら?」
おいしそうな食事と一緒に、メッセージカードが一枚出てきた。
カードには見覚えのある几帳面な筆跡で、『体を大切に』という一言メッセージがつづられていた。
「……っ」
そうだよね。
宰相閣下が差し入れを指示したと言っても、直接調整するわけじゃない。閣下の指示を受けて細かい手配をする人間が必要だ。
息子がそれを引き受けていても、おかしくない。
そっけない、ただ一言の気遣いだけど。
この疲れた状況でコレはちょっと……いや、かなり心にクる。
メッセージカードを握りしめたまま、固まってしまった私を見てセシリアがくすっと笑う。
「リリィ様、かわいい」
「かわっ……って、セシリア!」
「そうなのです、ご主人様はかわいいのです」
「フィーアまで!」
恋する乙女をからかわないでいただきたい。
王子の婚約者として行動が制限されている私にとって、フランとの接触はひとつひとつが貴重なのだ。
久々の直筆メッセージカードに浮かれるのはしょうがないと思う。
「さっさとごはんにするわよ! 食べられる時に食べておかないと、身が持たないわ」
「そうですね」
苦笑するセシリアとフィーアに見守られながら、食事をする。
メッセージカードはポケットに大事にしまっておいた。もうちょっと見返してたかったけど、こんなところ人に見られたら、また面倒ごとになってしまう。
その判断は正しかったようで、すぐにまた控室のドアがノックされた。
「どなた?」
返事をすると、訪問者の名前が告げられる。
それは意外でもあり当然でもある人物だった。
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