動機
ローゼリアは再び声をあげた。
「それは私が祖父の娘であると、素性を偽ったからで……!」
「貴様には不可能だ」
必死の言葉を宰相閣下は冷たく遮った。
「マクガイアが告発された6年前、貴様はまだ成人したばかりの18歳だった。表向きは裕福な商人の娘として育てられた小娘に、司法の調査を誤魔化せるだけの能力はない」
宰相閣下はローゼリアを睨み据える。
「貴様が生きてここに立っている。それこそが、第三者の介入を示す証拠なのだ」
「小娘というなら、私ひとりを見逃したくらい、大したこと……」
「ローゼリア、貴様はなぜクリスティーヌ殿下を狙った?」
「は?」
突然の話題変更に、ローゼリアはぽかんと口をあけた。
宰相閣下は表情をかえずに、問いを重ねる。
「事件を起こした動機をたずねている。お前は、なぜクリスティーヌ殿下を殺そうと思った?」
「まってください、私が狙ったのは……」
「王宮に火を放った上、毒を塗ったナイフで切り付けるなど、並大抵の恨みではあるまい。やはり、父親が原因か? 死刑の判決を下した国王陛下への不満と考えれば、つじつまはあう」
「ちが……そうじゃな……」
「一介の宰相である私には、到底向けられることのない憎しみだ」
「他人事みたいな顔しないでっ!」
広間にローゼリアの金切り声が響いた。
「国王陛下に責任転嫁してんじゃないわよ! そもそも、父を告発し、死刑にするよう進言したのはアンタじゃない! その上引退したはずのハルバード侯爵がしゃしゃり出てきて、父の立場を乗っ取った!」
「ほう?」
「アンタが……アンタとハルバード侯爵が、父の邪魔さえしなければ、こんなことにはならなかった! アンタたちが私から幸せを奪ったのよ!」
ダン、と縛られたままの手で、ローゼリアは証言台の手すりを叩く。
「だから、アンタたちが一等大事にしてるお嬢様を狙ってやったの! 大事なものを失って、絶望する悲しみを味わわせてやろうとしたのよ! 陛下も殿下も関係ない! 私はアンタに復讐するために……!」
「は、ははは……」
「なによ?!」
突然笑い出した宰相を見て、ぎょっとローゼリアが言葉を切った。閣下はまだ苦笑している。
「王家は関係ない、私やハルバード候に復讐したかったから、リリアーナ嬢を狙った、か」
「……そうよ」
「みなさん、見てください。これが連座を免れ、己の家族の罪と向き合わなかった者の末路です」
公爵閣下の言葉をきっかけに、広間の空気が変わった。
ローゼリアがぼろぼろの姿で現れてから今まで、どこかしらに彼女を憐れむ空気はあった。
何しろ、若い娘だ。
王女を殺しかけた重罪人と言われていても、今にも死にそうな様子を見せられたら同情してしまう。
人によっては、彼女を糾弾する宰相閣下のほうが、悪人に見えていたかもしれない。
しかし、彼女は自らの口で『復讐心を満たすために非力な少女を狙った』と宣言してしまった。
歪んだ動機をまのあたりにして、観客の同情心が急速に失せていく。
公爵閣下は小さく息をついた。改めて口を開く。
「……王国法における、犯罪者の連座処分について批判的な意見があるのは知っています。直接的に罪を犯していない親族まで罪に問うのは残酷だ、と」
ローゼリアに目を向ける。
「しかし、連座処分には三つの効果があります。家族を巻き込むまいと、罪を思いとどまる効果。つながりが立件できなかった親族内の共犯者を強制的に罰する効果。そして、残された親族による私的復讐の抑止効果」
観客たちの視線もローゼリアに集まる。
「マクガイア告発時にローゼリアが連座処分されていれば、王族殺害未遂事件など元から起きなかったのですよ」
否定する者はいなかった。
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