ローゼリアの主張
かつて、王妃づきだった侍女らしく、ローゼリアは背筋を伸ばして発言を続けた。
「私は、私の意志により侯爵令嬢を襲いました。すべては私ひとりで計画し、私ひとりで実行いたしました……王妃様は関係ありません」
「それはありえない」
宰相閣下は彼女の言葉を真向から否定する。
「貴様がクリスティーヌ殿下とリリアーナ嬢に手をかけるには、いくつもの条件をクリアしなければならない」
宰相閣下は、ゆっくりと一本ずつ指をたて始めた。
「まず王妃づきの侍女として雇われること、それが最低条件だな。そして、魔力式給湯器から火が出るよう細工するため、王宮全エリアに出入りする権限を得る」
「出世の努力を……しただけです」
「離宮の火事と橋の爆破には特殊な薬剤が使われていた。危険物の入手ルートも必要だな」
離宮をあっという間に火の海にし、頑丈な橋を壊したのだ。
真っ当な手段で手に入れた燃料じゃこうはならない。
そして、と宰相閣下はまた指を立てる。
「留学生の脅迫手段も必要だな」
「なんだそれは?」
突然降ってわいた言葉に、ランス伯が食いつく。
宰相閣下は息をついて彼に目を向けた。
「さきほど、リリアーナ嬢の発言にあったでしょう。キラウェアからの留学生の荷物から火が出たようだと。ローゼリアは卑劣にも留学生を脅し、彼女の荷物の中に発火物を仕込んだのですよ」
すっとフランが横から書類を一枚出した。
「彼女からはすでに、ローゼリアの罠にかけられ脅されたと証言を得ています。留学生の名誉を守るため、ここでは細かい脅迫内容については、伏せさせていただきます」
証拠として受領するためだろう。
この書類も文官のもとへと手から手へと運ばれていった。
火の気のないリビングで、どうしていきなり火柱があがったのか不思議だった。しかし、そういうからくりがあったのなら納得がいく。
「ただ、留学生を陥れる罠はこの王宮で行われていました。ここでそれなりに人を動かす権限がなければ、実行できません」
人を使う権限を持つ者。
それは侍女ではない。王妃だ。
「そして、これが一番重要なのですが……王家の抜け道を知っていること」
「なぜそんなことが……いや、クリスティーヌ殿下が襲われたのは、抜け道の中だったか」
「まずローゼリアは留学生の荷物に発火物を忍ばせました。その後、抜け道を通って離宮に侵入し、侍女のタニアを殴打。留学生の荷物から出火し、殿下たちが避難し始めたのを見計らって橋を爆破しました。そして抜け道に戻り、殿下たちが避難してきたところを、ナイフで襲った。起きた事象をもとに組み立てた順序ですが、おおむね誤りはないでしょう」
「王家の抜け道を知っていなければ、実行不可能だな」
「抜け道の秘密は、王族と彼らの安全を守る近衛の一部しか知りません。だとすれば……」
観客の視線が王妃に集まる。
王妃づきの侍女だったローゼリアが接触できる王族は、王妃ただひとりだ。彼女以外、ローゼリアに手を貸せた者はいない、ってことなんだろう。
あれ? それでいいんだっけ?
ひっかかりを感じて、私は宰相閣下を見た。
彼は薄く笑っている。
「お、お待ちください!」
ローゼリアが声をあげた。
「違います! 王妃様は無関係! 無関係なのです!!!」
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