置物国王
「みな、面をあげよ」
低い声に従って、臣下たちはいっせいに顔をあげた。
私も顔をあげる。
玉座を見ると、すでに王族の一家三人が着席していた。
国王を中心にして、左手に王妃、右手に王子が座っている。清楚なドレスを着た王妃は、もう十七になる息子がいるとは思えないほど若々しく美しい。息子のオリヴァーはやや緊張しているようだった。
そして、彼らの中心に座る国王はというと。
意外にもイケオジだった。
王子と同じ、輝く金髪に澄んだ緑の瞳。王の権威を示す豪華な軍服の上から、重そうなマントを羽織っているけど、その姿に衣装負けした様子はない。彫りの深い顔立ちに、整えられたヒゲがよく似合っていた。
これが、置物と陰口をたたかれる国王?
見た目だけなら名君と称えられていてもおかしくない、イケオジぶりだ。
とても優柔不断な王様には見えなかった。
キラキラ王子様のオリヴァーの父親なんだから、顔のつくりが美形でもおかしくないんだろうけど。
「……!」
私のとなりで、セシリアがさっきの私とは別の意味で息を呑んだ。
「大丈夫?」
「思ったより、父に似ていて……びっくりしました」
ほう……とため息をもらす。
セシリアの父親と現国王は、本物と影武者の関係だ。本物によく似るようにと、選ばれて連れてこられた子供なのだから、髪と目の色が一緒なのは当然だ。しかし、彼らがすり替えられたのは赤ん坊の時。大人になった今でも似ているとは思わなかった。
「今日、お前たちを集めたのは他でもない。ある重罪人について、審議するためだ」
すでに全員目的を知っているからだろう。
国王の宣言を遮る者はいなかった。
「ギュスターヴ」
国王に呼ばれ、ギュスターヴ・ミセリコルデ宰相閣下が前に出る。資料を手に、宰相閣下が審議を開始した。
「先日、王宮内の複数個所にて火災が発生。その隙をついて、王妹殿下クリスティーヌ様と、ハルバード侯爵令嬢リリアーナが襲われました。幸い、おふたりとも命は助かりましたが、クリスティーヌ殿下は骨折した上に火傷。さらに毒を仕込んだナイフで切り付けられ、生死の境をさまようことになりました」
クリスが襲われたとは知っていても、そこまでの重症だとは思っていなかったらしい。
貴族たちの驚きの視線がクリスに集まった。
腕を吊ったままのクリスが苦笑する。
「殿下が今ここに立っていられるのは、事件当時リリアーナ嬢が適切な処置をしたこと。その後、薬学の権威と名高い東の賢者ディッツ・スコルピオの治療を受けたおかげです。亡くなっていてもおかしくはありませんでした。そのため、私はこれを殺人と同等の罪として裁くことを進言いたします」
「……王族殺しか」
国王がぽつりとつぶやく。
その場にいた貴族たちは、それぞれにどよめいた。
今回事件の標的は私だったかもしれない。
でも、その結果として王の妹であるクリスが傷つき、死にかけた。
だからこの事件は王族への加害として扱われるのだ。
「提案を受け入れる。……進めてくれ」
「は。では罪人をここへ」
ごとん、と重い音がして謁見の間正面の大扉が開かれた。
頭からすっぽりとフードを被った黒衣の男が、女をひとり連れて入ってくる。濃い蜜色の髪に翡翠の瞳。ぼろぼろの姿だけど間違いない、地下道で私たちに襲い掛かってきた王妃の侍女、ローゼリアだ。





