表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【紙書籍】【コミカライズ】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる!  作者: タカば
悪役令嬢は王妃を追及したい

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

497/539

事件のあと、あるいは事件の始まり(クリス視点)

 朝日の眩しさを感じて、目が覚めた。

 まぶたが重い。

 体全体に鉛を詰め込まれたように、ずっしりと全身が重かった。

 ゆるゆると目を開くと、見慣れた天井が目に入ってきた。豪華さはないけど、よく手入れされた重厚な部屋。クレイモアの自室だ。


「……?」


 状況がわからず、思わず顔をしかめてしまう。

 私は今朝まで王城の離宮にいたはずだ。同じ王都内に建てられているとはいえ、なぜクレイモアの邸宅にいるのだろう。

 身じろぎしようとしたら、ずきん、と右腕に痛みが走った。固定されているのか、そこだけ重くて動かせない。

 ああ、そうだ。

 思い出してきた。

 離宮は火事にあったんだ。

 逃げ遅れたタニアを助け出そうとして瓦礫にぶつかり、右腕を怪我したんだった。その後も、脱出しようと王家の抜け道を進んでいたら、毒ナイフで斬りつけられて……。

 クレイモアのベッドに寝ている、ということは無事助け出されたんだろうか。

 いまいち記憶がはっきりしない。

 左腕が下になるよう、ごろりと寝返りを打つ。

 と、目の前に他人の寝顔がった。

 短くそろえられた銀髪に、男らしい端正な顔。閉じられた瞼の奥の瞳が、自分と同じ深い紫をしていることは知っている。


「ヴァン?」


 間違いない、婚約者のヴァンだ。

 私が離宮に暮らす間、彼も王都のクレイモア邸で過ごしていたから、屋敷にいるのは当然といえば当然なのだが。

 なぜ、私のベッドに。

 そして、なぜ添い寝状態なのか。


「ん……?」


 私が起きたことに気づいたんだろう、ヴァンの長いまつ毛が揺れた。

 何度か瞬きをしたあと、紫水晶のような瞳に光が宿る。


「クリス、目が覚めたか」


 ふわりとうれしそうにほほ笑まれて、不覚にもどきんと心臓が飛び跳ねた。寝起きにこの笑顔は刺激が強すぎる。


「な……なんで?」

「なんでって……」


 む、とヴァンの顔がしかめっつらになった。


「一昨日の事件のこと、どこまで憶えてる?」

「おととい?」


 はて、事件は昨日だった気がするんだが。


「お前、丸一日以上寝てたんだよ。あー……王城から火が出たってのは、わかってるよな?」

「ああ。シュゼットたちを避難させたあと、タニアが取り残されていることに気づいて、リリィと一緒に離宮に戻ったんだ。その後、三人で抜け道を使って逃げていたら、ローゼリアとかいう刺客に襲われて、斬りつけられた」


 私は寝転がったまま天井に視線を移す。


「そのあたりから記憶があいまいだ。どうやら、ナイフに毒が仕込まれていたらしい、ってところまでは覚えてるんだが」


 はあ、とヴァンは私の顔を見ながらため息をついた。


「相当な猛毒だったらしい。リリィが持っていた緊急解毒薬を飲んでいなかったら、抜け道から出る前に、死んでいたそうだ」

「よくそれで助かったな」


 あの時抜け道にいたのは四人。

 私、リリィ、気を失ったタニアと、襲撃者ローゼリアだけだ。

 侯爵令嬢のリリィたったひとりで、あの場を切り抜けたとはにわかに信じがたい。


「オリヴァーがフランドールを連れて抜け道に乗り込んでって、ローゼリアを捕まえたらしい」

「オリヴァーとフランドール……? どういう状況だ?」


 抜け道にオリヴァーが登場したのはまだいい。王族ならば、道の存在を知っていてもおかしくないからだ。しかし、リリィの婚約者である王子が、そのリリィの秘密の恋人と一緒に救助に来た?

 ありえない。

 ふたりはリリィをはさんで完全な対立関係にあるはずだ。

 そもそも王子は普段からヘルムートを従えていたはずではなかったか。


「俺も知らねえよ。お前が火事で怪我したって連絡うけて王宮にとんでったら、ふたりが助けたって話になってただけだから」


 ヴァンはガリガリと頭をかく。


「とにかくお前とタニアを家に連れて帰ってきたけど、毒のせいかとにかく熱が高くてな……。このままじゃやばそうってことで、ハルバード侯爵家から東の賢者を借りてきて、治療させてたんだ」

「え……熱……?」


 覚えがない。

 クレイモアのベッドに寝かされてからの記憶は、まったく残っていなかった。

 しかし、高熱がでていたのだと考えれば、この異常な体のだるさに説明がつく


「やっと容態が安定したのが今朝がただったかな……」


 ヴァンはため息をつきながら、頭をなでてくる。

 よく見たらヴァンの目の下には濃いクマがあり、全体的にげっそりしていた。

 そうか。

 彼は考え無しに添い寝していたんじゃない。

 生死の境をさまよう婚約者のために寝ずの看病をして、つい隣で寝入ってしまったのだ。


「そばにいてくれて、ありがとう。ヴァン」

「お前は俺の共犯者だからな」


 ヴァンが苦笑する。

 お互い、すでに共犯者以上の感情を抱いていることは知っている。この物言いは、ただの照れ隠しだ。

 わかったからといって、口に出したりはしないけど。


「喉が渇いただろ、水でも飲むか?」

「ん……ほしい」


 体を起こそうとして、右腕がまだ動かないことに気が付いた。

 よく見ると、何か添え木のようなものをあてられて、包帯でぐるぐるに固定されている。

 ヴァンは体を起こすと、私の体をベッドサイドのクッションに寄りかからせてくれた。


「ありがとう」

「寝っ転がって水飲むと、むせるからな」


 そんなことを言いながら、口にカップをあててくれた。柑橘で香りづけされた水が喉に心地いい。


「腕が動かないと不便だな」


 しかも利き腕である。

 しばらく剣どころか、日常生活もおぼつかないだろう。

 思うように運動できないのは苦痛だ。


「あんまり動かすなよ」

「賢者殿は何と?」

「毒に加えて、火傷と打撲と骨にヒビ、それから腕の傷は十二針縫ったって」

「そこまで重症だったのか。気が付かなかったな」

「火事場で興奮してて、痛みに気づけなくなってたんだろ。ただ、幸いというかなんというか、骨はすぐにくっつくし、傷も抜糸して薬を塗ってれば痕も残らねえってよ」


 ヴァンは陶器の小さな容器をあけて見せてくれた。淡い色の軟膏からは、さわやかな森の香りがする。


「十二針の傷跡が消えるなんて、賢者殿の薬はすさまじいな」

「もともとジェイドがフィーアのために作ったものらしいぜ」

「……訂正。東の賢者師弟はすさまじいな」


 ヴァンは苦笑して肩をすくめた。


「傷はそれなりに重いが、私もリリィも生き残ったんだな。襲撃者の思惑は外すことができた、ってことになるのか?」

「いや、そうでもない」


 ヴァンはきまずそうに視線を外して首を振った。


「何があった?」

「シュゼットが消えた」

「なに?!」


 シュゼットは自分たちと違い、真っ先に離宮から避難していたはずだ。彼女が姿を消すなんて、理屈にあわない。


「王城の騎士たちが、炎に包まれた離宮に注目しているスキをつかれたらしい。救助されたリリィが、シュゼットの避難先を確認しに行ったら、姿がなかったそうだ」

「混乱していたからって、王城から他国の姫を? ありえない」

「リリィが言うには、どうもユラ……邪神の手先が関わっていたらしい」

「……!」


 ヴァンは顔をしかめる。


「勇士七家の血をひく俺たちに邪神は直接手出しできない。しかし、シュゼットはキラウェアから来た姫君だ。当然、女神の加護の範囲外だ」

「やつらの本当のねらいは、シュゼットを私やリリィの庇護から引き離すことだったのか……」


 ただ思惑に乗せられるまま、怪我をして倒れた自分が口惜しい。

 自分が離宮に入ったのは、シュゼットを守るためだったのに。


「お前は、やれるだけのことをやったよ」


 ぽん、とヴァンの手が頭におかれた。


「今、宰相派の騎士を中心に、極秘捜索隊が編制されている。シュゼットのことはあいつらにまかせて、お前は回復に専念してくれ」

「わかった……」


 ヴァンが心配しているのもわかっているので、私はいますぐ飛び出していきたい気持ちをおさえて、うなずいた。


お待たせしました新章開始です!

前回の続きから、シュゼットを中心とした不穏な話を書いていきたいと思います。

お楽しみください!


そして追加の告知です!

11/29にクソゲースピンオフ外伝「無理ゲー転生王女」の1巻が発売されます。

こちらもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紙書籍版はこちら
yc7fazc3ex416ry2nbwhndnkqxw_180l_ix_rs_gcuw.png
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ