幕間:お別れの挨拶(ミリアム視点)
「お、お待たせしました……ローゼリア、さん」
指定された場所に行くと、すでに私を呼び出した女官が待ち構えていた。濃い蜜色の髪の女は、翡翠の瞳を細めてにんまりと笑う。
「久しぶりね、ミリアム」
「……」
私は身をすくませる。
でも、これはあと少しの辛抱だ。
「突然の災害で、連絡がとれなくなってたけど、元気そうでよかったわ」
「その……王宮に避難してからは……ひとりで、出歩けませんでしたから……」
「ふうん」
肯定しているようで、まったく信用する気のない返事だった。
「あなたのことだから、新しい場所でまた秘密の恋人を作っていると思ってたわ」
「あ……あれは、あれっきりのことで……! そもそも、あなたたちが仕掛けたことじゃないですか」
「それでも、母国に婚約者がいながら彼についていったのはあなた。彼と関係を持ったのもあなた。元から関わらなければ、罠になどかからなかったのに」
「う……」
私は唇を噛んで必死に耐える。
もう少しだ。
もう少しだけ耐えればいい。
「もう……失礼させてください。私たち、帰国するんです」
「そうらしいわね。国を隔てても末永くお付き合いを……」
「む、無理です! 堪忍してください……!」
「やめてあげる」
「……は」
翡翠の瞳の女は、にやにやと笑っている。
「やめてあげる、って言ったの。あなたとの取引は、これっきりにするわ」
「……そ、う。ですか」
どくどくと心臓が早鐘を打っている。
落ち着け。
女は取引をやめると言っているのだ。
自分が一番望んだ結果じゃないか。
「これでも、あなたには感謝してるのよ? 宰相家の連中は誰も彼もガードが硬くて、なかなか近づくこともできなかったから」
ローゼリアは懐から何かを取り出した。
紅い布張りの小さな箱。蓋を開けると、そこには大粒の真珠がひとつ、おさまっている。
「な……に、ですか」
「お礼よ。あれだけ働いてもらったのに、ご褒美もナシじゃかわいそうでしょ」
「結構です……!」
「遠慮しないで」
拒否しようと一歩下がったら、無理やり荷物にねじこまれた。
「ね?」
睨まれて、私は抵抗をやめた。
どうせこれきりだ。
この場を乗り切れば、縁が切れる。
小箱ひとつ受け取れば解放されるのだ。
従ったほうが早くすむだろう。
「……ありがとう、ございます」
「いい子ね」
ローゼリアが身を引いた。ねっとりとした蛇のような視線が、ようやくゆるむ。
彼女は優雅にお辞儀した。
「ごきげんよう。永遠に、さようなら」
ついに悪魔から逃れた私は、大急ぎで主の元へと向かった。
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